01 遊戯法

卓上RPGを遊ぶためにルールブックなどから提供された「ルールシステム」や「世界設定」は、「それらをどのように使って楽しむか」という視点から再整理された上で、実際のゲームプレイに活かされます。

この「ルールシステムや世界設定の使い方、楽しみ方」を、私はこのブログで「遊戯法」と称することとします。以前、「遊び方」と呼んでいたものと同じ概念です。

「遊戯法」について更に語る前に、それを概念として認識し、考えることのメリットを示しておきます。

私が「遊戯法」などと大層な名前を付けるより遥か昔から、「ルールブックや世界設定をどう使って遊ぶか」という思考はありましたし、誰もがそれを実践してきました。昨今では「リプレイのように遊ぶ」という代替手段もありますが、それができるようになる以前や、リプレイの無いゲームシステムでは今でも、自分の頭で考えなくては遊ぶことができない/できなかったのです。

「遊戯法」を分ける根本的発想のひとつは、「成功」をキーワードに考えることができます。「ミッション成功」「セッション成功」そして「成功が無い」ものです。これらはまた、日本における卓上RPG主流の発展史でもあるので、その順に従って説明します。

まず、卓上RPGには「成功」がありませんでした。成功が無ければ、当然「失敗」もありません。シナリオ内の目的が達成できないことはありましたし、プレイヤーキャラクターが逃げたり全滅することもありましたが、それは「失敗」ではなく、そういう「結果」に過ぎませんでした。キャラクターはまた作れますし、次回のプレイもあるのですから、結果がどうであれ、何ら問題ではありません。要は、そのプレイが「面白い」か「つまらない」かという参加者各々の主観的判断だけが重要なので、各々が「面白い」と思うように自由に遊んでいたのです。素晴らしいかな、自由なる卓上RPG!

そろそろ「遊戯法」を具体的に考えていきましょう。

例えば、行為判定ルールにおける「失敗」をどう扱うかによって、シナリオの構造が異なったものとなり、その楽しみどころも替わります。仮にゲームやシナリオのテーマが同じであっても、ルールの使い方だけで別の「遊戯法」となり、参加者を異質なプレイに導くのです。

ここではそれらを「減点方式」「加点方式」「分岐方式」の三種に称して、各々説明します。なお、例示する技能名は何でも良かったので、私の好きな「クトゥルフ神話TRPG」から挙げております。

まず「減点方式シナリオ」では、行為判定が成功する度にシナリオが進展します。例えば「説得」技能に失敗すれば相手から情報を聞き出すことはできませんし、「鍵開け」に失敗すれば扉を開けることはできません。失敗し続ける限り話はいつまでも進まず、再度判定して成功するか、成功できそうな別の手段を考えなくてはいけません。成功が基準で、失敗した場合の「減点」しかないので、「減点方式」です。

ゲームプレイの現場では、時にプレイヤーは「何をすれば良いのか分からない」「PCに何をさせれば良いのか分からない」という状況に置かれることがあります。この状況もまた、前提となる考え方やシナリオの様式、要は「遊戯法」によって異なった解釈ができます。

前回述べた「減点方式シナリオ」や「加点方式シナリオ」では、シナリオの「あるべき展開」が定められており、プレイヤーが「するべき行動」(PCにさせるべき行動)もある程度決まっています。ゲームマスターはプレイヤーに「するべき行動」を伝え、プレイヤーはそれを実行することで、「あるべき展開」が実現するのです。

先に進む前に「減点方式」「加点方式」「分岐方式」といった三種のシナリオ構造の例を示しておくこととします。同じダンジョンの扱いが各方式でどう変わるか、という試みです。例によって技能名は「クトゥルフ神話TRPG」のものを用います。

まず設定。盗賊のアジトとなっているダンジョン。洞窟入口に見張りの姿は無く、入っていくと10m先に小部屋がある。不用意に入ると天井が崩れ(「目星」技能判定で気付く)、瀕死の重傷(相応のダメージ)を被った上、盗賊に気付かれる。実は入口から5mほどの地点に隠し扉(「追跡」技能判定で気付く)があり、盗賊はその先にいる…とします。

ここからは、任意のゲームシステムから「遊戯法」を考えていくことについて語ってまいります。その手順は次の通り。

1、そのゲームシステムには多種多様な「遊戯法」がある、と認識する。

2、「ルールシステム」および「世界設定」のひとつひとつにつき、その特徴を読み取る。

3、読み取った各特徴から、その向き不向きを導き出す。

4、向き不向きに配慮しつつ、遊ぶ際に認識すべきテーマを定める。

5、テーマとの間に不適合や不足があるなら、それを補うための手法を定める。

6、テーマを参加者と共有し、手法を駆使してゲームプレイを行う。

ルールブックから「遊戯法」を定める際の三つの注意点、その残る二つについて。

第二の注意点は、「デザイナーの意図」を信じるな、そういう概念を盲従するな、ということです。

デザイナーが某かの世界観をもって「ルールシステム」や「世界設定」を創っているのは確かですが、「シナリオをこういう展開にさせよう」とか「プレイヤーにこういうプレイをさせよう」とかの「意図」は必ずしも込めていません。込めているデザイナーもいるでしょうが、そうだとしても次のような難しさがあります。

ゲームシステムから「遊戯法」を読み取る際の三つの注意点に留意しつつ、具体例を挙げてまいります。

やはり最初は慣れたところで「クトゥルフ神話TRPG」の、「ルールシステム」から三つ、何れかの「世界設定」からも三つの題材を挙げ、その「特徴」や「向き不向き」について考えてみましょう。その後、別のゲームシステムを用いるかどうかは一段落ついてから考えます。

まず、行為判定ルールである「D100ロール」。これは、技能値などを百分率(%)で表わし、1~100の目が出るサイコロ(D100)でそれ以下を出せば成功、そうでなければ失敗とするものです。ここでは「00(=100)は常に失敗」というくらいで、オプションルールなどは含めずに考えてみます。

クトゥルフ神話TRPG」のルールシステム解釈2回目は、プレイヤーキャラクター(探索者;Investigator)の能力について考えてみます。私の解釈では「キャラクター作成ルール」と「成長ルール」とが主たる論点となり、先の「D100ロール」よりは大きくゲームシステム特有のものとなります。

各ルールの説明は省きまして、その「特徴」は次の通り。

ルールシステム編の最後は、「クトゥルフ神話TRPG」(CoC)特有のルールである「正気度」について考えてみます。以前にも一度やっていますけど、改めて「特徴」を並べると次の通り。

1、初期値は無作為に決められる。
2、上限値は「クトゥルフ神話」技能値によって決まる。
3、大きいほど正常な行動を維持し易く、小さいほど行動不能になり易くなる。
4、神話生物との遭遇、魔道書の読解、呪文の行使などによって減少する。
5、神話に関わる事件の解決、神話生物の退治(退散)などによって増加する。

ここからは「世界設定」について考えてみます。

まず重要なこととして、「ルールシステム」と違い、「世界設定」はすべてがルールブックに書かれていません。サプリメント(補助資料集)も含め、そこにあるのは主要かつ表面的な情報であって、残る大部分は遊び手が独自に「補足」しなくてならないのです。そしてその補足作業において、多くの「解釈」が介入することとなります。

今回は「世界設定」ふたつめの題材として、「装備」について考えます。ここでいう「装備」とは、財布や自転車など日常的な品物ではなく、希少性や高値、専門性、法律などによって持つことが制限される物品を指します。ヘリコプターやサブマシンガン、魔法の道具などがその一例です。

「世界設定」について例示する題材の最後は、1920年代アメリカ特有の現象である「禁酒法」について考えてみます。まず恥を晒しますと、その字面などから私は「禁酒法」を次のような法律だろうと思っておりました(特徴A1~A5)。

A1、1920年に(何らかの事情で)制定された。
A2、飲酒や製造、販売など、酒に関するすべての行為を禁じた。
A3、もぐり酒場(Speak easy)がはびこり、実際には誰もが酒を飲んでいた。
A4、密造やもぐり酒場経営などを資金源としてギャングが強大化した。
A5、1933年に、おそらく皆に反対されて廃止された。

長々と六つの題材について述べてまいりましたが、このような作業は実際にはルールブックを読み進めるのと並行して瞬間的、直感的に行われます。手間も時間も大してかからず、自然にできるが故に、かえって無意識に思い込みが強くなるのが落とし穴です。

各題材について一言ずつまとめると次のようになり、これらが「多様なる解釈の中から選び出した、私=鏡が好む、クトゥルフ神話TRPGが向いている遊び方」の要素となります。「私が好む」というところが大切ですよ。

たとえ「ルールシステム」や「世界設定」から導き出した「テーマ」であっても、「不適合」や「不足」が生じることはありえます。また「短所を補う」のみならず「長所を伸ばす」ためにも、様々な工夫が凝らされるべきです。それらの工夫を、ここでは「手法」と呼びます。

「手法」には、書籍や映画など参考資料の事前提示、要点を絞った配布資料の作成、参加者同士でのちょっとしたアドバイス、更にはルールシステムの追加デザインなどが考えられます。

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