探索者用呪文リスト (2005年執筆)

本論考は、2005年10月3日に発表されたものです。文中の趣旨が、現在の筆者の考察とは異なる場合もありますので、ご注意願います。

狂気に陥る危険の少ない呪文を、「毒をもって毒を制する」闘い方のために

はじめに

クトゥルフ神話TRPG」(CoC)のルールブックp.249~292には、222の呪文と4つの道具についての記述がある。呪文の内、減る「正気度」(Sanity;SAN)の多いものは大抵は敵NPC専用で、ゲームマスターだけが憶えていればよいものである。他方、「正気度」がまったく減らないか、減っても狂気に陥らないものは、「探索者」(Investigator)たるPCにも使用可能な呪文である。少なくとも敵NPCは使ってくるわけで、それらについてPCが知っていることはゲーム内で生き延びることを容易にするし、プレイヤーが知っていればゲーム外での説明を省略することができる。

要は誰もがルールブックを購入し、一読しておけばよいのだが、200項目以上が五十音順に並んでいるだけで分かり難い。それらの整理に(楽しくもあれど)多大な労力を要することも、先の雑考「正気度とは何か」執筆のためにまとめてみて、改めて認識できた。何より、せっかくまとめたデータを自分だけで使うのも勿体無いので、一部を編集し直して「探索者用」と称し、ここに公開する。最低限のデータしか記さないので、ルールブック片手に(持ってない方は購入して)ご利用いただきたい。

略号について

呪文名に続く「POW」「MP」「SAN」は、その呪文を使用した際の消費ポイントを表わしている。各略号の説明は以下の通り。

  • POW : 「精神力(Power)」。消費したポイントは永久に失われる。
  • MP : 「マジックポイント(Magic Point)」。時間経過によって回復する。
  • SAN : 「正気度(Sanity Point)」。大量に失われると狂気に陥る。シナリオ解決等によって回復する。

これらの消費と回復については後述する。

「正気度」がまったく減らない呪文 : 21

無論、「正気度」が減らなければ、いかなる狂気にも陥らない。

  • 悪魔退散 (10MP、0SAN)
  • 癒し (3MP、0SAN)
  • 魚を引きつける (2MP、0SAN)
  • サメ/イルカに命令する (任意のMP、0SAN)
  • 死体の粉の創造 (2MP、0SAN) : ゾンビに対する防御
  • スレイマンの塵 (0MP、0SAN)
  • 憎悪の像の召喚 (12MP、0SAN)
  • 敵の拘束 (任意のMP、0SAN)
  • 動物に命令する (1MP、0SAN)
  • 動物を魅了する (対象のSIZ分のMP、0SAN)
  • ニャンベのパワー (1POW、0SAN)
  • 光と闇の目 (100POW、0SAN)
  • 布石 (石1個につき1MP、0SAN)
  • 旧き印 (2POW、0SAN)
  • 平凡な見せかけ/仮面 (対象のSIZ分のMP他、0SAN)
  • ヘルメス・トリスメギストスの毒塵 (4MP、0SAN)
  • 魔法の感知 (6MP、0SAN)
  • 無欠の投擲 (3MP、0SAN)
  • 目の保護 (2MP、0SAN)
  • 病をもたらす (任意のMP、0SAN)
  • レレイの霧の創造 (2MP、0SAN)

「正気度」が減るが、狂気には至らない呪文 : 55

一度に減る「正気度」が4ポイント以下であれば、「一時的狂気」に陥ることはない。

  • アイホートを追放する (任意のMP、1D4SAN)
  • 悪夢 (8MP、1SAN)
  • イーデ・エタドの放逐 (0MP、1D4SAN)
  • イシスの封印 (任意のMP、1SAN)
  • 萎縮 (任意のMP、消費MPの半分のSAN)
  • ヴールの印 (1MP、1SAN)
  • 鋭敏な2人 (4MP、0/1SAN)
  • エイボンの霧の車輪 (任意のMP、1SAN)
  • 記憶を曇らせる (1D6MP、1D2SAN)
  • さまよう魂 (1MPを残して全MP、1D4SAN)
  • 支配 (1MP、1SAN)
  • 邪眼 (10MP、1D4SAN)
  • 消滅 (箱作成に2POW、5MP、1SAN)
  • 砂嵐を起こす (20MP、1D4SAN)
  • 精神交換 (対象のPOW分のMP他、1D3SAN)
  • 生命の察知 (1MP、1SAN)
  • イス人との接触 (4MP、1SAN)
  • セデフカーの皮膚 (10MP、1D3SAN)
  • タールクン・アテプの鏡 (5MP、1SAN)
  • 立ちこめる夜霧 (3MP、1D2SAN)
  • 魂の歌 (8MP、1D4SAN)
  • 魂の束縛 (10MP、3SAN)
  • 魂の罠 (1POW、1D4SAN)
  • チャウグナー・フォーンの奴隷の召喚 (1D2MP、遭遇による0/1D2SAN)
  • 治癒 (12MP、1SAN)
  • 天候を変える (1レベルにつき10MP、1SAN)
  • 刀身を清める (1POW、1D4SAN)
  • 動物の足を不自由にする/治癒させる (4MP、不自由にさせる場合のみ1D4SAN)
  • トートの詠唱 (任意のMP、1D4SAN)
  • 肉体の屈服 (5MP他、3SAN)
  • 肉体の保護 (任意のMP、1D4SAN)
  • ハートの勇気 (1POW、4SAN)
  • 破壊 (3MP、1SAN)
  • 吐き気の魔法円 (4MP、2SAN)
  • ハスターの歌 (1D4MP、1D4SAN)
  • 被害をそらす (1MP、1SAN)
  • 光を消す (1MP他、1D3SAN)
  • 雛を取り除く (任意のMP、各1D3SAN)
  • イグの子供の召喚/従属 (任意のMP、1D3SAN)
  • 炎の精の召喚/従属 (任意のMP、1D3SAN)
  • 卜占 (4MP、1D2SAN)
  • マインドブラスト (10MP、1D3SAN)
  • ナイフに魔力を付与する (1POW、1D4SAN)
  • 投げ槍(木製)に魔力を付与する (4POW、1D4SAN)
  • 火鉢に魔力を付与する (1POW、1D4SAN)
  • 門の箱に魔力を付与する (1POW、箱SIZ×100のMP、1+SAN)
  • 槍(金属製)に魔力を付与する (1POW、1D4SAN)
  • 門の発見 (1MP、1D3SAN)
  • 幽体の剃刀 (毎ラウンド2MP、2SAN)
  • 夢の薬の製法 (3MP+1服あたり1MP、2SAN)
  • 夢みる人の罠 (8MP、1SAN)
  • 夢を送る (任意のMP、1D3SAN)
  • ラーの声 (5MP、1SAN)
  • ろうそく交信 (5MP他、1SAN)
  • 分かれの砂 (2MP他、0/1D4SAN)

それだけでは狂わないが、後の展開等でその危険のある呪文 : 35

呪文それ自体で減る「正気度」が少なくても、その後に起こることによって狂気に陥る場合がある。詳細はルールブック参照。

  • 悪魔の暴露 (任意のMP、0SAN)
  • イブン=グハジの粉 (一回分あたり1MP、0SAN)
  • 黄金の蜂蜜酒の製法 (一服あたり20MP、0SAN)
  • 時空門の創造 (移動年数によるPOW、0SAN)
  • シャンを追い出す (1POW、10MP、0SAN)
  • 水晶占いの窓の創造 (10POW、98MP、0SAN)
  • 古のものとの接触 (3MP、1D3SAN)
  • クトゥルフの星の落とし子との接触 (6MP、1D3SAN)
  • クトーニアンとの接触 (5MP、1D3SAN)
  • 食屍鬼との接触 (8MP、1D3SAN)
  • 砂に棲むものとの接触 (3MP、1D3SAN)
  • 外なる神の従者との接触 (14MP、1D3SAN)
  • ティンダロスの猟犬との接触 (7MP、1D3SAN)
  • ネズミ怪物との接触 (2MP、1D3SAN)
  • ノフ=ケーとの接触 (6MP、1D3SAN)
  • 飛行するポリプとの接触 (3MP、1D3SAN)
  • 深きものとの接触 (3MP、1D3SAN)
  • ミ=ゴとの接触 (8MP、1D3SAN)
  • 無形の落とし子との接触 (3MP、1D3SAN)
  • アトラック=ナチャの子供の召喚/従属 (任意のMP、1D3SAN)
  • 忌まわしき狩人の召喚/従属 (任意のMP、1D3SAN)
  • 空鬼の召喚/従属 (任意のMP、1D3SAN)
  • 黒い仔山羊の召喚/従属 (任意のMP、1D3SAN)
  • 外なる神の従者の召喚/従属 (任意のMP、1D3SAN)
  • ビヤーキーの召喚/従属 (任意のMP、1D3SAN)
  • 星の精の召喚/従属 (任意のMP、1D3SAN)
  • 夜鬼の召喚/従属 (任意のMP、1D3SAN)
  • 亡霊に命令する (10MP、1D3SAN)
  • ホイッスルに魔力を付与する (任意のPOW、1D4SAN)
  • 本に魔力を付与する (任意のPOW、1D4SAN)
  • 向こう側への旅 (15MP、0SAN)
  • 門の観察 (1MP+門によるMP、2SAN)
  • 門の創造 (移動距離によるPOW、0SAN)
  • 夢の映像 (3MP、0SAN)
  • 霊の識別 (12MP、2SAN)

呪文の使い方1 : 正気度(SAN)の消費と回復

1回の正気度消費量が4ポイント以下であれば「一時的狂気」に陥ることはないが、プレイ内時間で1時間の累計消費量が正気度の1/5を超えると「不定の狂気」に陥る。即ち、(正気度の1/5)-1ポイントがプレイ内時間の1時間で消費(減少)可能な正気度となり、各プレイヤーで把握しておくべきものである。

例 : 正気度65であれば、1時間で失われるのが(65/5-1=)12ポイントまでなら「不定の狂気」に陥らなくて済む。

この累計消費には神話生物との遭遇などによる正気度減少も含まれることにも注意されたい。1回の戦闘や建物の探索などは大抵1時間以内に収まるので、それらの「場面」の前後に間を開けるようにすると管理し易くなるであろう。

正気度の回復はプレイ後にのみ行われる。何ポイント回復するかは、シナリオをうまく解決したか、どれくらい強い神話生物を退けたか、などで決まる。シナリオ序盤で敵の目的や正体についてよく調べ、その予想から使っても良さそう(仕方なさそう)な正気度を逆算するのが、賢明と言える。

呪文の使い方2 : マジックポイント(MP)の消費と回復

マジックポイントは、ゲーム内の24時間で全ポイント分が回復する。この回復ペースが、一日に使える呪文を制限することとなる。

例 : マジックポイント12ポイントであれば、(24/12=)2時間に1ポイントのペースで回復する。

また自分と相手とのマジックポイントによる対抗によって成否を決する呪文では(最大値ではなく)現在値が用いられるため、マジックポイントの消費は次の呪文を掛かり難くし、また相手の呪文にも掛かり易くなる。危険を避けるためには、不用意な消費を避け、可能な限り最大値を維持すべきである。

呪文の使い方3 : 精神力(POW)の消費と増加

SANやMPと異なり、精神力の消費は永久的なものである。ただし、MPや精神力の対抗判定で成否を決める呪文を使用し、その判定に成功した場合、精神力が増加する可能性がある。この処理はプレイ後に行われ、人類の最大値21と現在値の差×5%の判定を行い、成功すると1D3ポイントが得られる。

例 : 精神力13であれば、((21-13)*5=)40%の確率で1D3(1~3)ポイント増える。

精神力が減るとMPや幸運ロールなども低くなる。MP対抗を要する呪文をまず憶え、機会を見ては使っておき、増えた精神力を使うことを考えるのが無難と言えよう。(他にも増える可能性はあるが、これが一番確実な方法である。)

その呪文は魔道書に載っているか?

CoCのPC=探索者は、作成時には呪文をひとつも憶えていない。それらは専ら、シナリオの中で手に入れる魔道書の研究を通して得られることとなる。しかしながらルールブック所収の魔道書データには「召喚」などの重要呪文以外、特に上記「探索者向き呪文」の多くは記されていない。このため、手に入った魔道書にどのような呪文が載っているかは、各々が独自に決めなくてはならない。

手に入った魔道書は、その所有者から奪い取ったものであることが珍しくない。そして魔道書の所有者は、しばしば(邪悪な)魔法使いである。そのため、それを手に入れたシナリオの中でその魔法使いが使っていた呪文が、まず載っていることとなる。(実際には、魔道書以外から呪文を憶える機会もあるが。)

それら以外の呪文については、「全部載っている」「ゲームマスターが使わせたい呪文だけ載っている」「まったく載っていない」など様々なやり方がある。以下、参考までにそれをランダムに決めるハウスルール案を紹介しておく。

  1. ルールブックの魔道書リストに記されている呪文は、すべて載っているものとする。
  2. 魔道書の所有者がシナリオ内で使用した呪文は、すべて載っているものとする。
  3. その他の呪文が載っている可能性は各々につき、その魔道書を読んで増える「クトゥルフ神話」技能×5%である。
  4. ゲームマスターがあらかじめ全呪文について判定しておくか、プレイヤーの要請に従って判定させること。
例 : 『ナコト写本』を読んで増える「クトゥルフ神話」技能は10%である。この本に呪文が載っている可能性は、各呪文ごとに50%である。

判定の失敗は、「その魔道書に載っていない」ことの他、「写し間違い」や「虫食い/腐食のため判別不能」などを意味する。同じ魔道書を別途入手できた場合には、再判定させて良いであろう。

おわりに:で、結局、その呪文を、使うのか?

CoCの呪文は「おぞましい」ものである。それを用いる際に払う代償(SANなど)に加え、その準備過程や効果が正視に耐えないグロテスクなものであることが少なくない。

それ故、最終的に「その呪文を使うか否か」はプレイヤーが決めることである。おそらくはPCの人格設定などにおいて葛藤を生むであろうプレイヤーに対して、ゲームマスターが無理矢理「その呪文を使わせる」ことはあってはならない、と私は考える。

もちろんそれは、「呪文を使わせない」「呪文を使うべきでない」などとゲームマスターが勝手に決めてはいけない、ということでもあるのだが。