カードRPGの歴史 (2004年執筆)
本論考は、2004年9月9日に発表されたものです。文中の趣旨が、現在の筆者の考察とは異なる場合もありますので、ご注意願います。
カードを判定に用いるRPGシステムの歴史と、その内容
はじめに:「カードRPG」の歴史をまとめた意義
最初に白状しておくと、私はそもそも何のためにこれをまとめたのか、完全に忘れてしまっている(^^;)。
多分私のことだから、キャッスルファルケンシュタインとトーキョーNOVAとのルール比較に絡んで思いついたとか、自作ゲームデザインのための資料にしようと企んだとか、そんなとこだろうと思う。けど、よく憶えていないのだ。
しかしながら、確か以前「まとめて掲載する」と言っていたはずだし、あらためて読んでも面白い資料になっていると思うので、ここに記すこととする。その意義は読んでくださった方々が自力で見出してもらえると有難い。←無責任
資料について
下記リストは、卓上RPG史の優れた資料であるAN ENCYCLOPEDIA OF ROLE-PLAYING GAMESから「カードRPG」(後述)を抽出し、まとめ直したものである。この貴重な資料をまとめられたJohn H. Kim氏には心から敬意を表する。
もちろん、その作業の結果である本文の責任は私=鏡にあるので、間違いの指摘等は当方にいただきたい。データの欠落、判定ルールの誤解等に気づかれた場合も、是非ご指摘を賜りたい。随時訂正したいと考えている。
なお、上記資料には本年(2004年)出版分のデータも逐次追加されているが、便宜上2003年出版分までのみを扱うこととした。また、年ごとの順序はアルファベット順であって、出版順ではないのでご注意いただきたい。
「カードRPG」の定義と抽出法
- 本論考で扱う「カードRPG」とは、「全部もしくは一部の判定ルールにおいて、なにがしかのカード(トランプ、タロット、オリジナルカードなど)を用いる卓上RPGのゲームシステム」を表すものとする。データを記したカードを利用するだけの場合はこれに含めないこととした。
- 基本資料であるAN ENCYCLOPEDIA OF ROLE-PLAYING GAMES所収の各リストから「カードRPG」を抽出し、年代順に並べ直した。また、同年に出版された作品はアルファベット順とした。
- 抽出された各ゲームシステムもしくはそのレビューを読んで、どのようにカードを用いるかを確認した。他に情報が得られなかったものは、基本資料の説明文を要約した上で「詳細不明」とした。
「カードRPG」の歴史(1976~2003年)
(1976年)
- Knights of the Round Table (1976年アメリカ、Little Soldier Games)
1973年のD&Dに始まる卓上RPG史上、最初の「カードRPG」である。戦闘判定にのみオリジナルカードを用いるらしいが、詳細は不明。題名通り、アーサー王の世界を扱ったファンタジーRPGとのこと。(未入手)(1979年)
- Crimson Cutlass (1979年アメリカ、Better Games)
付属のスペイン式タロット(日本でも一般的なタロット)を行為判定に用いるらしいが、詳細は不明。Swashbuckling物とは大抵大航海時代ヨーロッパを扱ったもので、題名からすると海賊物っぽいが、より広範囲を扱っているようでもある。(未入手)(1989年)
- Lace and Steel (1989年アメリカ、TAGG)
判定にダイスとカードを用い、またPC作成にもタロットカードを使用するとのこと。戦闘判定に用いるオリジナルカードについては、宮本隆志さんのサイトで紹介されている。これもSwashbuckling物であるが、剣士物のようで、魔法もあるとのこと。(未入手)- レムリカ銃士隊 (1989年日本、冒険企画局)
判定には数字の書かれたオリジナルカードを使用するらしいが、詳細は不明。ファンタジーRPGであるが、カードゲームとしても遊べるとのこと。(未入手/情報提供:本好虫さん) ※2005年9月18日追加(1990年)
- Torg (トーグ) (1990年アメリカ、West End Games)
かつて日本語訳もされ、今でも有名な作品。判定はダイスによるが、「ドラマデッキ」と呼ばれるオリジナルカードを併用することもできる。確認できる範囲で、「手札4枚」を採用した最初のゲーム。「マルチ・ジャンル物」というらしい。(入手したはずだが、紛失)- ビヨンド・ローズトゥロード (1990年日本、遊演体)
判定にはダイスを用いるが、魔法判定にのみオリジナルカードを使用する。魔法の効果はカードが示す「意味」の組み合わせで創作でき、その強度は使用したカード枚数により決定されるとのこと。ファンタジーRPG。(未入手/情報提供:紙魚砂さん) ※2004年9月19日追加(1991年)
- Cyb: Gioco di ruolo in un lontano futuro (1991年イタリア、Kappa magazine)
判定はトランプで行う。山札からカード1枚をめくってその数を能力値に足すが、難易度によっては出せるスートが限定される。植物に支配された未来世界を扱ったサイバーパンクRPGとのこと。(未入手、レビューから内容を推定)(1993年)
- Shatterzone (1993年アメリカ、West End Games)
前出Torgと同じルールシステムを用いたサイバーパンク物。「ドラマデッキ」を少し手直ししてあるらしい。(未入手)- トーキョーNOVA (1993年日本、F.E.A.R.)
判定にはトランプを用いる。4枚の手札から1枚出し、能力値とスートが合えば数値を足して難易度と比較、合わなければ自動的に失敗。山札から出すこともできる。我が国独自の工夫を凝らしたシリーズの第1版(ツクダホビー版)で、ジャンルを「アーバンアクション」と称する。なお上記基本資料では、出版年が1994年と誤っており、また「キャッスル・ファルケンシュタインと同じ判定ルール」、ジャンルも「サイバーパンク」と紹介されている。(所有、プレイ経験有)- ファー・ローズトゥロード (1993年日本、遊演体)
判定にはダイスを用いるが、魔法判定にのみオリジナルカードを使用する。各カードに対応したランダム表から得られた「意味」の組み合わせから魔法の効果が創作され、使用したカード枚数から強度が決定されるとのこと。またオプションルールではこのカードを精霊とのコミュニケーションにも用いる。ファンタジーRPG。(未入手/情報提供:紙魚砂さん) ※2004年9月19日追加(1994年)
- Castle Falkenstein (キャッスル・ファルケンシュタイン) (1994年アメリカ、R Talsorian)
近年日本語訳もされたスチームパンクRPG。判定にはトランプを用いる。4枚の手札から0~4枚を出し、能力値とスートが合えばその数を、合わなければ1を能力値に足して、難易度と比較する。魔法判定には別の山札から1枚ずつめくり、呪文のスートと合ったカードを累算、必要な数値以上となった時点で成功となる。高度に発達した蒸気科学と魔法、妖精、竜などが同居するパラレルワールドの19世紀末ヨーロッパが舞台となる。(所有、プレイ経験有) ※2004年9月19日増補- MasterBook (1994年アメリカ、West End Games)
前出Torg、Shatterzoneと同じルールを汎用システムとしたもの。ドラマデッキを少し手直ししてあるらしい。これ以後、"Indiana Jones"など複数の舞台設定が出版されているが、それらについては省略する。(入手したはずだが、紛失)- Psychosis (1994年アメリカ、Chameleon Eclectic)
判定にタロットを用いるとのことだが、詳細は不明。「未来世紀ブラジル」や「トータルリコール」のようなSurreal(超現実)物とのことだが、よく分からない。(未入手)- ゴーストハンターRPG (1994年日本、アスペクト;02は2002年イエローサブマリン)
判定にはダイスを用いる。恐怖判定に失敗した時、トランプを山札から1枚めくり、その数値とスートによってその結果が決められる。そのカードは手札として隠されるため、他のプレイヤーはそのPCがどのような状態であるか分からない。(所有) ※2004年9月19日追加- パラダイスフリート (1994年日本、富士見書房)
判定にトランプを使用する。プレイヤーは7枚の手札から出し、ゲームマスターは難易度分の枚数を山札から引いて、「大貧民」の役(同じ数のカードを複数枚揃えるか、同じスートで連続した数のカードを揃える)を作る。プレイヤーの方が強い役であれば(=構成するカードの枚数が多ければ)、判定成功となる。コミカルなSFRPG。(未入手/情報提供:ディアス・ダロさん) ※2004年10月3日追加(1995年)
- Dragon Storm (1995年アメリカ、Black Dragon Press)
判定はダイスによるが、プレイヤー用カードの一部を出すことで自動成功とすることができる。他のプレイヤー用カードは、キャラクターデータや装備品、マスター用カードは複数を組み合わせて場面を表現するのに用いる。ファンタジー物。カードを主たる商品とする点では、成功したEverwayと言えなくもない。(オフィシャルサイトで無料配布中のルールブックのみ所有)- Everway (1995年アメリカ、Wizards of the Coast)
判定にタロット風のオリジナルカード"Fortune Deck"を用いるのだが、数値ではなく、カードの正逆や示す意味が重要になる。シナリオの作成とプレイには別組のイラストカード"Vision Card"を使用する。また、両カードはPC作成にも用いられる。多元世界ファンタジー物。(所有、プレイ経験有)- Miles Christi (1995年フランス、Sans Peur et Sans Reproche)
判定にトランプを用いるらしい。十字軍時代を扱った歴史物RPGで、PCはテンプル騎士団の一員となるらしい。(未入手)(1997年)
- Men in Black (1997年アメリカ、West End Games)
判定はダイスで行うが、"Cue Cards"と呼ばれるカードに書かれた文脈通りの行動をとる場合にはボーナスが加えられるとのこと。同名の映画を原作としたRPG。(未入手)- 深淵 (1997年日本、スザクゲームズ)
判定はダイスで行うが、様々な記載事項のあるオリジナルカードを併用する。6枚の手札から技能値分の枚数を出し、判定に修正を加えることができる。また、戦闘時の追加行動やダメージ処理もこのカードで行われる。その他「夢歩き」と呼ばれる特殊な情報獲得にもしばしば用いられる。(入手、プレイ済)- CLUMP学園TRPG (1997年日本、角川書店『CLUMP学園公式ハンドブック』所収)
判定にトランプを用いる。山札から引いたカードが赤色(ハード、ダイヤ)なら成功、黒色(スペード、クラブ)なら失敗。また、基準値以下の数値を出すと成功となる判定法もある。後者において黒色のカードを引いた場合は更に3枚引き、各スートごとに決められたキーワードから状況の変化を決めるシステムもあるとのこと。漫画家CLUMPによる学園物マンガを扱ったRPG。(未入手/情報提供:回転翼さん) ※2004年9月19日追加(1998年)
- Dragonlance: The Fifth Age (1998アメリカ、TSR)
「SAGAシステム」と呼ばれる判定ルールではトランプに似たオリジナルカードのみを使う。手札から1枚出して能力値にその数を足す。このカードはPC作成時にも使用し、また手札の枚数はPCの耐久力によって決まる。小説ドラゴンランスシリーズの第5期を扱ったRPG。(所有)- Heaven and Earth (1998年アメリカ、Event Horizon)
判定は能力値+技能値と難易度との比較で行うが、山札から引いたトランプによって修正や特殊な効果が加わるらしい。TVドラマ「ツインピークス」や「アウターリミッツ」に影響を受けた現代オカルト物とのこと。(未入手)- Marvel Superheroes Adventure Game (1998年アメリカ、TSR)
「Dragonlance: The Fifth Age」と同じ「SAGAシステム」を採用したスーパーヒーロー物RPG。(未入手)- 新星界スター=ロード (1998年日本、ゲームフィールド)
判定はダイスによるが、トランプを併用し、効果を上げることができる。敵NPCが用いたカード(「壊力」と称す)はPCに与えられ、手札(「命力」と称す)として使用することができるらしい。スペースオペラRPG。(未入手/情報提供:Rick=Tさん) ※2004年9月19日追加(1999年)
- Agent X (1999年アメリカ、Mind Interactive)
判定の際には、能力値から難易度を引いた枚数のカードを山札から引き、数の合計値で成功度が決まるとのこと。スパイ物で、PCはFBIやCIAのエージェントとなる。(未入手)- ERA (1999年イタリア、editore Clinica tbf/multiserver)
判定にカードを用いるらしいが、詳細は不明。ファンタジーRPGとのこと。(未入手)(2000年)
- Purgatory (2000年アメリカ、Atomic Hyrax Games)
判定にカードを用いるらしいが、詳細は不明。終末直前の世界を舞台にした陰謀物で、特殊能力を得て死から蘇ったPCがそれに立ち向かう。(未入手)(2001年)
- Engel (2001年ドイツ、Feder & Schwert)
上記ドイツ語版では、判定にタロットカードを使うようだが、詳細は不明。27世紀を舞台にした聖書的ファンタジーRPGで、天使とその仲間となって悪魔と戦うとのこと。2002年にWhite Wolf社から出た英訳版はD20システムを採用しており、ルールが異なるらしい。(未入手)- The Last Exodus (2001アメリカ、Synister Creative)
判定にはトランプを用いるとのことだが、詳細は不明。現代を舞台に、奇跡を起こす力を得たPCが、救世主あるいはアンチキリストとして戦うらしい。(未入手)(2002年)
- Dust Devils: The Truly Gritty Old West Role-Playing Game (2002年アメリカ、Chimera Creative)
状況に応じた二つの能力値の合わせた枚数のトランプを山札から引き、ポーカーの役を作る。ゲームマスター側のそれと勝負して勝てば判定成功となる。西部劇物のRPG。(所有)- Starchildren: Velvet Generation (2002年アメリカ、XIG Games)
判定はトランプを使う。手札5枚から1枚出したカードのスートで能力値を修正し、ランダムに1枚引かれたカードと比較するとのこと。近未来の管理社会で、人間と異星人のPCがロックンロール・バンドを組んで社会に反抗するというRPGらしい。(未入手)- ローズトゥロード (2002年日本、エンターブレイン)
判定にはダイスを用いるが、魔法判定にのみオリジナルカードを使用。魔法の効果は、使用するカードの組み合わせに対応した表から決められるが、カードの「意味」の組み合わせから決めるオプションルールもある。魔法の強度は、規定の数値を用いるか、もしくは使用したカード枚数から決定される。ファンタジーRPG。(未入手/情報提供:紙魚砂さん) ※2004年9月19日追加(2003年)
- Savage Worlds (2003年アメリカ、Pinnacle Entertainment Group)
判定はダイスによるが、戦闘時のイニシアチブを山札からトランプを1枚ずつ引いて決定する。汎用ルールシステム(所有)- スターオーシャン Till the End of Time TRPG (2003年日本、スクウェア・エニックス)
判定に「Gutsカード」というオリジナルカードを使用する。手札6枚(状況により変化)から1枚を出した後、難易度で指定された数の色を山札から揃える。手札から出したカードの色が、山札から出した色のどれかと合えば、判定は成功となる。同名のコンシューマRPGを原作とするSFRPG。(未入手/情報提供:Millさん) ※2004年9月19日追加おわりに:「カードRPG」の歴史をまとめた意義、再考
以上のようにまとめた「カードRPG」の歴史を私自身あらためて読み、その長さと、開発されたデザインの多様さに圧倒された。サイコロを用いるルールシステムと同様に、判定方法を事細かに考察すれば、そのゲームがどのようなプレイにより向いているのかを知ることができるであろう。逆に、期待するプレイに適したルールシステムをデザインしたい者にとっても、刺激的かつ参考となる資料となるはずである。
考えるべき要素は色々ある。どのようなカードを用いるのか。山札から引くか、手札から出すか。手札だとしたら何枚持つのか。引く/出せるのは何枚か。(書いてあるとして)スートや数にどのような意味/価値を持たせるか。サイコロ等を併用するか否か。使用済みのカードはどう処理するのか。などなど...。
もちろん、これらから得られた考察は「解釈」であって、人によって多種多様となりうる。得られるものの多様性が、卓上RPGを発展させる力となる。(であるから、各々が自分で読み、自分で考えなくてはならない。)
諸氏が得た賢察については、この掲示板で語り合うも良し、各々の活動に活かすも良し。どちらであれ、なにがしかの役に立てば幸いである。