Adventurerとは何か (2003年執筆)
本論考は、2003年6月16日に発表されたものです。文中の趣旨が、現在の筆者の考察とは異なる場合もありますので、ご注意願います。
卓上RPGの「遊び方」を考える:「プレイヤーの仕事」の決定
はじめに
卓上RPGにおける「ゲームマスターの仕事」というのは比較的はっきりとしている。シナリオの準備と運営、プレイヤーが担当しない登場人物(NPC)の管理などは、どのゲームでもそうであろう。では、「プレイヤーの仕事」は何であろうか?
大雑把に言えば、プレイヤーの担当登場人物(PC)を管理することである。が、それをどのように扱えばよいのだろうか?この「PCをどのように動かすべきか」を伝えるものが、「Adventurer」などの語が示す「PCの役割」であった、と私は考えた。
これらの概念について、以下に述べる。
要約
- PCの呼称が示す「PCの役割」は、プレイヤーが最優先すべき「プレイヤーの仕事」であり、設定などはそれに従属すべきものである。
- 「行動」として表される「役割」は容易で誰にも楽しめるものであり、「結果」として表されるそれは難しく中上級者向きである。
- 参加者全員が「プレイヤーの仕事」を確認することで、円滑なプレイを行うことができる。
「PCの役割」と「プレイヤーの仕事」
卓上RPGのPCは、ゲームシステムによって異なる呼称で呼ばれる。例えば、海外のファンタジーRPGではしばしば「Adventurer」、ソードワールドでは「冒険者」、クトゥルフの呼び声では「探索者(Investigator)」、トーキョーNOVA
などのFEAR製RPGではジャンルに関わらず「キャスト」と称される。しかしこれらは単なる呼称ではなく、プレイヤーにとって最も重要な概念である、と私は考えるに至った。これらの呼称は、そのゲームの中でPCが担うべき「役割」を示している。そしてPCにそれをさせることこそ、プレイヤーが最優先とすべき「仕事」なのである。過去の人生経験や性格などの「キャラクター設定」は、本来「PCの役割」に従属するものである。「PCの役割」を正当化するための設定が推奨されるだけではなく、「PCの役割」さえ邪魔しなければどのような設定でも支障無いのである。「PCの役割」と「プレイヤーの仕事」が確認・実行されていれば、卓上RPGは分かり易く、かつ進行の早いゲームとなりうる、と私は考えている。
しかしながら日本ではこのことが十分に機能せず、それが様々な問題と日本独自の解決法を生じせしめた。このことについては次の「雑記」として別途記すこととする。
以下、幾つかのゲームにおける「PCの呼称」を挙げ、そこでの「PCの役割」と「プレイヤーの仕事」について、私なりに解釈してみよう。
「Adventurer」とは何か
「Adventurer」という呼称は、最初期にはカタカナで「アドヴェンチャラー」とも記されたが、その後は「冒険者」と訳されることが最も多い。辞書を引けば「冒険家」ともあるが、あえて完全な名詞とはせず、「冒険する者」「冒険を好む者」など「行動」として解釈したい。
「PCの役割」はそのシナリオ=与えられた状況の中で「冒険すること」であり、「プレイヤーの仕事」はPCに「冒険させること」である。
冒険しさえすれば「PCの役割」と「プレイヤーの仕事」は達成されたことになる。敵を倒せたか否か、財宝を手に入れたか否か、ヒロインを救出できたか否かなどは、問題ではないのである。もちろんそれらをも達成することを誰もが望み、達成できれば褒め称えられるであろうが、できなかったからといって責められることではない。役割/仕事は「行動」であって、「結果」ではないからである。
なお、「冒険すること」は、単に死地に赴けばよいということではない。なぜなら、死んだらそれ以上冒険できないからである。冒険を繰り返しつつ、なお生き長らえることが目標なのである。もちろん、生き長らえるために冒険をしないのは本末転倒で、役割/仕事を怠っていることとなる。
ソードワールドの「冒険者」とは何か
長年日本のスタンダードRPGとして君臨したソードワールドRPGにおけるPCの呼称は「冒険者」である。これは「Adventurer」の翻訳のようであるが、機能的にはまったく異なるものであった。なぜならそれは「PCの役割」ではなく、PCは冒険者という職業であるとする「世界設定」であったからである。
ではソードワールドにおける「PCの役割」は何であろうか?おそらくそれは(カタカナが多くて申し訳ないが)「ミッションをクリアする者」であろう。プレイヤーは「ミッションをクリアさせること」が仕事となる。「行動」ではなく、「結果」が求められているのである。
「結果」の重視はソードワールド以前からあった傾向であるが、このことはプレイを著しく難しいものにする。単なる結果であった「失敗」が、誰もが避けるべき、絶対的に悪いものとなってしまうためである。失敗を責めるマスター、失敗に気を病むプレイヤーなどが登場し、挙句の果てには「PCが絶対に失敗しない」ための技術を求めるようになるのである。
他のゲームにおける「プレイヤーの仕事」
私が好きなゲーム数点を選んで、そこでのPCの呼称から「PCの役割」について考えてみよう。
クトゥルフの呼び声(Call of Cthulhu)におけるPCは、「Investigator」と呼ばれる。「探索者」と訳されるが、意味的には「調査者」「調べる者」と捉えた方が良いと私は考える。「PCの役割」は(怪事件や怪人物を)「調べること」であり、プレイヤーの仕事は「調べさせること」である。調べさえすれば、事件が解決しようがしまいが、人類が救済されようが滅びようが、「プレイヤーの仕事」は達成されたことになる。なるべく死んだり狂ったりしないように、であることは言うまでもない。
異色のファンタジーRPG、EverwayのPCの呼称は、「Hero」である。英雄的な業績を残すという「結果」と捉えるか、英雄的行為を行うという「行動」とするか、二通りに考えられる。
スチームパンクRPG、キャッスル・ファルケンシュタイン(Castle Falkenstein)では「Dramatic Characters」という呼称を用いている。「演劇に登場するような人物」「劇的な人物」「芝居がかった人物」など、色々と解釈できる。確かにそういうゲームである(^^;)。日本語版では果たしてどのような語が当てられるであろうか。
※次項の一部に事実誤認があることをトライアムアさんからご指摘いただきました。取消線を用いて訂正いたします。トライアムアさん、ありがとうございました。(2003年6月20日)
FEAR製RPGにおける「キャスト」と「ゲスト」トーキョーNOVAにおける「キャスト」と「ゲスト」FEAR社による「トーキョーNOVA」
「ブレイドオブアルカナ」「アルシャード」などでは、そのジャンルに関わらず、PCは「キャスト」と称される。この呼称は見事に「PCの役割」「プレイヤーの仕事」を示しており、興味深い。「キャスト」とは「配役」「割り当てられた役割」といった意味であるから、「PCの役割」は「シナリオで与えられた配役をこなすこと」、「プレイヤーの仕事」はそうさせることである。つまりはシナリオごとに内容が変わるわけで、そこで期待されるものが「行動」であるか「結果」であるかによって難易度も変化する。ただ、その段階にならないと分からない分、単なる「行動」よりはやや難しいといえる。
「配役」の割り当て方も難易度に影響するが、これもゲームによって異なっている。余談になるが、こ
れらのゲームにおける主要NPCの呼称「ゲスト」は「客」の意、いわば「特別出演」「ゲスト出演」のような扱いのNPCということであろうか。トーキョーNOVA Rのルールブックには「お客さんはプレイヤーである」(p.122)「ゲストがキャストを食ってはいけない」(p.124)などとあるが、この呼称には「キャストはゲストを食ってはいけない」という含みがあるようにも思われる。特別出演を食ってしまった俳優がどうなるか?などとは考えすぎか(^^;)。結論:「プレイヤーの仕事」を確認する意義
「PCの役割」と「プレイヤーの仕事」には、容易なものと困難なものとがある。まず、どちらを選択するか、よく話し合うべきである。幸い、それらが異なったからといって、シナリオを変更しなくてはならないものではない。直前の意識統一として用いればよい。
必ずしもそのゲームにおける名称に拘る必要は無い。そのような概念があることを認識すれば、それは取捨可能な「選択肢」となる。あとは、参加者同士で話し合うだけである。
これらを確認することで、プレイヤーはとりあえず何をすればよいのか、どこに満足を見出せばよいのか、そしてゲームマスターはプレイヤーに何を期待されているのか、それらが全員の前に明示される。PCの目的はプレイ開始後に探すことになるだろうが、プレイヤーの目的はその前に分かっていた方が遊びやすいに違いない。
発展形:基本的役割と副次的役割
認識された概念は「選択肢」となるのみならず、更なる段階に発展させることができる。私が考えた一案を呈してみよう。
まず、PC全員に共通な「基本的役割」を決める。次いで、「副次的役割」を選択してもよい、とするのである。「基本的役割」は「冒険する者」のように「行動を示す」ものが適している。「副次的役割」を取らなければ、それだけがプレイヤーの仕事となる。「副次的役割」は中上級者向きである。マスターが幾つか用意しても良いし、プレイヤーが決めても良い。
「基本的役割」を一致させることでシナリオへの関与の姿勢を統一し、更に「副次的役割」を全員の了解の下に加えることで、広がりを生むことができる。
例として「クトゥルフの呼び声」で考えてみよう。「基本的役割」は「Investigator=調べる者」。「副次的役割」には「Hunter=狩る者」「Saver=(ヒロインなどを)救う者」「Seeker=(禁断の知識を)求める者」などが考えられる。全員が「調べる」ために一致団結するのであるが、一部にその先まで考えている者がいる。勝手な行動ではなく、プレイ前に了解されるのであるから、面白い味付けとなると思うのだ。
他のRPGでも考えることができると思う。ご興味ある方は、ぜひお試しいただきたい。