ネフィリムのキャラクターを作ってみたこと (2001年執筆)
本論考は、2001年5月16日に発表されたものです。文中の趣旨が、現在の筆者の考察とは異なる場合もありますので、ご注意願います。
Multisim社/Chaosium社刊"Nephilim RPG"のキャラクター作成レポート
はじめに
2001年春にエンターブレイン社より出版された"ゼノスケープ"RPGは、FEAR社あたりが卓上RPGをどのような遊びに変えていきたいかを示すかのような作品で、その点だけでも注目すべきものである。このゲームには新しい試みが色々盛り込まれていており、特に"前世"の扱いは難解で、どこかで一度試してみないといけないと思っている。
ところで"前世"の設定が少しでもプレイに絡むRPGとしては、Multisim社/Chaosium社の"Nephilim"、Black Gate Publishing社の"Legacy: War of Ages"(WWW上で無料配布)、Precendence社の"Immortal"(第2版"Millennium"のBook2、3を無料配布)が私の知るもので、特に"前世"設定に充実しているのが"Nephilim"である。フランス語初版が1991年、英訳版が1994年に出版されたもので、私自身購入当初はあまり魅力を感じず投げ出していた。ところが今回"ゼノスケープ"の参考資料になろうかと目を通す内に面白くなり、試しにキャラクター作成まで楽しんでしまった。
ふとした思い付きなのだが、ここにそのキャラクター作成の記録を掲載してみることにする。なお、作成過程で若干解釈を変えたり、ルールを追加/省略している部分があるので、それはその度に記すこととする。
1、ネフィリムの基本設定
"ネフィリム"(Nephilim)は地水火風月の五元素を操る精神生命体である。(元素には他にも"人工の月"や"土星"の元素があるが、略す。)人類が持つ最強元素="太陽"を己のものとし、究極の境地"Agartha"(ネフィリムの弱点がすべて克服されるらしいが、詳細は不明)を成就すべく、太古より歴史上の各時代の人物に憑依を繰り返している。当面の目的は敵対勢力(様々な性格の秘密結社や、利害が対立するネフィリムなど)から身を守りつつ、己の霊力と魔術知識とを高めることにある。そして20世紀末(今やるなら21世紀)、新たなるネフィリムの覚醒と共に物語(プレイ)の幕が上がるのだ。
作成第1段階として、ネフィリムの基本設定を決める。基本設定とは、"カー"、"メタモルフォーシス"、そして"大アルカナ"の三つである。
- (Ka)
ネフィリムは地水火風月の五種の霊的エネルギー(エジプト風に"カー"と呼ぶ)が調和した、それらの結晶のような存在である。五つの内最も強い元素が「支配カー」であり、それを元に他の四元素の強さの順序を決める。私が選んだのは、大気や知識を司り、知性(INT)に影響を与える"風"。"風"が「支配カー」の場合は"火"と"水"が中立元素、"地"と"月"が対立元素となる。私は「風>水>火>月>地」の順とした。実際の数値は最終段階に確定する。- (Metamorphosis)
すべてのネフィリムは"メタモルフォーシス"と称される類型を持っている。"ジン"、"エルフ"、"エンジェル"などがそれで、成長するにつれて精神と肉体の有様がその典型的なものに変化していくというルールである。徐々に人間離れしていくため、日常生活は困難になっていく。実は私はこのルールが気に食わないので、設定しないことにした。それで問題が発生するわけではないしね。- (Major Archana)
"大アルカナ"は、ネフィリムの氏族のようなもので、簡単な性格付けを行う。"(0)Fool"と"(21)World"はネフィリムの間でも謎に包まれたNPC専用アルカナ、また"(13)Death"や"(14)Devil"等のNPC向きを外し、残りの中からランダムに決めることとした。えいやっと20面ダイスを3回振ると、05、11、17が出た。説明を読んだ上で、"(11)Justice"を選択。太古の失われた法を求めるアルカナで、司法官的なイメージとなる。ちなみに"アルカナ"には、"Justice"のように性格付けを行うものの他、宿主との関係を表すもの("Hierophant"は神と神官のような関係を築く)、いささか混乱を招くもの("Moon"は現世での宿主に動物を選ぶ)等あって面白い。いずれのアルカナにせよ、その指針にどこまで従うかはプレイヤーに任されている。2、"前世"の設定
次の第2段階では、"前世"=かつてこのネフィリムが現れた時代と場所、"シミュラクラ"(Simulacra)と呼ばれる宿主となった人物と、その生き様が設定される。ネフィリムは時代と時代の間を"ステーシス"(Stasis)と呼ばれる物品の中で眠りにつき、条件が揃うと目覚めて人間の肉体に宿る。今回はルールブックに11、サプリメントに16用意された計27の時代からランダムに選んでみた。なお、ルール上ネフィリムはあまり有力な人物には憑依できないため、"シミュラクラ"は(少なくとも覚醒時点では)常に平凡な人物となる。
- (2700BC, Uruk, Sumeria)
最初の覚醒は紀元前2700年、シュメール王国のウルクであった。英雄的な王ギルガメシュの治世である。
職業(D100)は自由労働者、性別は任意で男性、年齢(3D6×5)45才の時に憑依=覚醒が行われた。分かる人には分かる理由からパン屋ということにしたが、当時パン屋がいたかどうかは後日調べよう(^^;)。覚醒前のこの人物の技能は、年齢の4倍で180%を関連技能に割り振る(最高値50%)ことで求められる。値切り(Bargain)30%、事務(Business)30%、工芸/パン焼き(Craft/Baker)50%、回避(Dodge)10%、言いくるめ(FastTalk)30%、拳/パンチ(Fist/Punch)30%とした。パンを焼くのが上手い、堅実なパン屋だが、喧嘩も強かったようだ。他、人生経験/シュメール45%と、シュメール語90%(本当は会話と読み書きは別扱いなのだが、私は同じものとして扱った)を得た。...それともシュメール語をエジプト語にでも振り分けようかな?
覚醒後の人生(3D6×5)は50年となった。この期間は魔術の習得に当てられる。時代毎に指定された魔術に覚醒後の年×2ポイントを割り振る。結果、ソーサリー/下位魔術技能を50%(=50p)とし、声を遠くまで届かせる、物質の半透明化など、4つの呪文(各10p)を憶えた。95才(45+50)の時、どのような最期を迎えたかをD100で決めると、「老衰で死す」。この時代に活発なアルカナ(The EmpressとThe Lovers)とも秘密結社(The Children of Utnapishtim)とも無縁の、どうやら平和な人生だったようだ。
最初の覚醒が終わる時、その中で眠りにつくための物品="ステーシス"(Stasis)を選ぶ。何度かダイス(D100)を振り、結局この男性に似合いそうな「銅の火鉢」とした。この中で次の時代、次の覚醒を待つのだ。- (1745AD, Scottish Rebellion)
第2の覚醒はなんと4500年程も後となった。紀元1745年のイギリス。スコットランドのハイランダー諸氏族が大英帝国に戦いを挑んだジャコバイトの反乱の時代である。活発なアルカナは"The Emperor"と"The Lovers"、秘密結社は"The Jacobites"。
今回は、政府軍の兵士70才。...おそらく"元兵士"だろうなぁ。ステーシスはひとつしかないなので大切に隠しておく。技能は、回避40%、拳/パンチ30、接近戦/銃剣(Melee/Bayonet)30%、接近戦/片手剣(Melee/Sword)30%、騎乗(Ride)40%、射撃/ライフル(Missile/Rifle)40%、観察(Scan)40%、生存術(Survival)40%、人生経験/18世紀イギリス70%、英語75%となった。
覚醒後は55年。ソーサリー/下位魔術に10%、サモニング/封印に30%、アルケミー/黒の石に30%を割り振り、2種の召喚対象と2種のアルケミー術とを憶えた。125才(70+55)で「病に死す」。- (1933AD, Berlin, Germany)
第3の覚醒は1933年、ドイツのベルリン。まさにナチスのヒトラーが政権を握った時代である。この時代は最も多くのアルカナと秘密結社とが敵味方に分かれて争った時代だそうである。物騒だなぁ。
で、職業は...なんと軍のスパイで、国籍はドイツと出た。人種は面倒なので考えないでおこう。年齢35才。技能は、隠蔽(Conceal)20%、工芸/鍵20%、応急手当(Firstaid)20%、射撃/拳銃(Missile/Handgun)20%、隠れる(Hide)20%、聴覚(Listen)20%、心理学(Psychology)20%、人生経験/第2次世界大戦35%、ドイツ語30%、英語25%とした。
国籍がドイツだと長生きできないようになっていて、覚醒後は8年と出た。アルケミー/黒の石に16%。最期は...「秘密結社(Thule、Templar、他)に殺される」。この時代の"Justice"アルカナについては記述があり、世界征服をたくらむThule、暗殺結社Vehmと特に対立したらしい。現世は日本にしたいので、日本に向かう船上でVehmのエージェントと相討ちになったことにしよう。43才。そしてステーシスは日本へ...。3、現世の設定
第3段階ではゲームプレイの舞台となる現代の宿主を作成する。ルールブックには多くのアーキタイプ、おざなりなランダム作成ルールがあるのだが、面白くないし、出来も良くない。そこで、簡単な自作ルールを使うことにした。"Nephilim"ではそういうルールが多くオンラインで発表されており、自由な雰囲気を作り出している。私もその一端に加わってみよう。詳細は省略し、出来上がった人物だけを紹介しよう。
- 考古学者を目指す大学院生26才。
- 太陽のカー(Solar-KA)13、筋力(STR)11、体力(CON)12、知性(INT)13、敏捷(DEX)12、魅力(CHA)11、社会性(Soc)10、家族関係09、教養(EDU)14
- 技能は、人類学(Anthropology)30%、考古学(Archeology)40%、コンピューター(ComputerUse)30%、地学(Geology)20%、歴史(History)40、資料調査(Research)48%、宗教/日本(Religion)20%、運転/自動車(Drive/Auto)30%、水泳(Swim)30%、人生経験/現代日本26%、日本語50%、英語15%。
なお、ルールブックによるとネフィリムは狙った人間の精神を封じ込めてその肉体を乗っ取るのであるが、私の趣味とルール上の矛盾解消のため、両者の魂は融合し(不安定ながら)ひとつになるものと判断している。そしていよいよ現代における覚醒が起こる。
4、最終的なデータの決定
この覚醒=憑依が起こった段階でネフィリムの各能力値が確定する。憑依された後、この若き考古学者のデータはどのように変化するのだろうか。
"前世"の数によって「支配カー」の数値が決まり(3回の場合は14)、それを元に他四元素が算出される。"シミュラクラ"の能力値は対応する"カー"の影響を受けて各々増強される。過去の人生で得た技能の合計値が"ネフィリム技能"となり、魔術も使えるようになる。ただし、肉体との不完全なバランスのため、現在の肉体が持つ"シミュラクラ技能"の使用には肉体の暴走が起こる危険があり、また魔術の行使の際には魔力暴走の危険性が残る。かくして最終的なデータは次の通りである。
- カー:風14(+4)>水11(+3)>火08(+2)>月06(+2)>地03(+1)、大アルカナ:"正義"(Justice)、ステーシス:銅の火鉢
- 筋力(STR)13(11+火2)、体力(CON)13(12+地1)、知性(INT)17(13+風4)、敏捷(DEX)15(12+水3)、魅力(CHA)13(11+月2)、教養(EDU)14、社会性(Soc)10、家族関係09、行動回数(Action)4、ヒットポイント13、魔力17
- (ネフィリム技能)
値切り30%、事務30%、隠蔽20%、工芸/パン焼き50%、工芸/鍵20%、回避40%、言いくるめ30%、応急手当20%、拳/パンチ70、隠れる20%、聴覚20%、接近戦/銃剣30%、接近戦/片手剣30%、射撃/拳銃20%、射撃/ライフル40%、心理学20%、騎乗40%、観察40%、生存術40%
人生経験/シュメール45%、18世紀イギリス70%、第2次世界大戦35%
言語/シュメール語90%、英語90%(90が上限のため)、ドイツ語30%- (シミュラクラ技能)
人類学30%、考古学40%、コンピューター30%、地学20%、歴史40、資料調査48%、宗教/日本20%、運転/自動車30%、水泳30%
人生経験/現代日本26%
言語/日本語50%、英語15%- (魔術技能)
ソーサリー/下位魔術60%と呪文4種、サモニング/封印30%と召喚対象2種、アルケミー/黒の石に46%と調合術2種覚醒と同時に肉体と精神が強化され、己の記憶以外の人生の知識と経験を持つこととなる。融合した自我、特にネフィリムの"大アルカナ"はこの若き考古学者に強い正義感のようなものを与えるであろう。いかに隠そうとも周囲の人間にもこの変化は伝わり...、やがては最も知られたくない敵にまで伝わるであろうこと想像に難くない。覚醒は危難の始まりでもあるのだ。
おわりに
以上、私がこのゲームで行ったキャラクター作成をつらつらと書いてみた。こうして文にしてみると長いのだが、楽しさのあまりか、あまり時間をかけた気はしない。今後どこかでプレイするのかと問われれば、無理に人を集めてまでやる気もなし、そもそのための時間と場所の予定も無し、と答えることになろう。自己満足といわれればそれまでで、まさに私が満悦したというだけの話である。
ところでこのゲーム、日本国内ではほとんど注目されていない。堂々と"オカルトRPG"と表紙に書かれているので、皆に顔を背けられても不思議は無いのだけれどね。私の知る範囲で唯一の紹介記事はスザクゲームズ刊(別冊で無い方の)FSGI誌の"海外B-(Bマイナス)級RPG研究会"である。が、この唯一の例もこのゲームの内容を正しく伝えていないという有様なのだ。(スザクゲームズ社の英語能力とゲームセンスの、あるいは良心の致命的欠落を喧伝するが如き、このひどいレビュー記事については近々記す予定である。...もうそろそろ解禁だろうから。)
何の役にもたたないこの文章はまさに雑記で、最後まで読んでいただいた方にとってあまり面白くない文章であったかもしれない。どうかご寛恕いただきたい。