私がプレロールドを避ける理由 (1998年執筆)
本論考は、1998年7月26日に発表されたものです。文中の趣旨が、現在の筆者の考察とは異なる場合もありますので、ご注意願います。
はじめに
以下の論考は、古谷俊一さんのプレイング研究室で提起されていた「プレロールドPCはなぜ受けないのか?」(MAT.Nさん/98年07月23日:12時37分54秒)という話題について、私なりの考えを述べるものです。
プレロールドキャラクターとは
最初に「プレロールド」という用語について簡単に説明しておきます。
ゲームプレイの際にプレイヤーが担当するキャラクター(Player Character、PC)は、プレイ以前の任意の日か、プレイ直前の時間を使って、プレイヤー本人が作成するのが一般的です。これに対して、マスターが複数(プレイヤーの人数かそれ以上)のキャラクターをあらかじめ作っておき、(大抵はプレイ直前に)各プレイヤーが担当したいキャラクターをその中から選択する、という方法があります。後者のように作成されたPCを、マスターが「あらかじめダイスを振った(pre+rolled)」ということから、「プレロールドキャラクター」と呼びます。
プレロールドキャラクターを用意するという方法を選択するか否かは、大抵はマスターの判断と、プレイヤーが賛成するか否かにかかっています。また、それを選択する理由は、「作成ルールがあまりに複雑であるため」や、「シナリオに適さないキャラクターを避けるため」など種々ありますが、「作成に費やされる時間を節約するため」というのが最も多いと思われます。
プレロールドキャラクターを避けたい私と、その理由
さて、かく言う私は、プレロールドを極力避けようとしている口なのですが、その理由について述べます。
私は、プレイヤーよりもマスターの方を多く担当する傾向にあるのですが、どちらの立場においてもプレロールドキャラクターを避けたがるという点では共通します。しかし、どちらを担当するかで、その理由が微妙に変わりますので、まずプレイヤーの立場からの考えを述べ、次に自分がマスターの時はどうかについて記すこととします。
1、プレイヤーとしての理由
- 1-1、キャラクター作成作業は楽しいので、自分で行いたい。
これについては、読んだ通りですので、細かく説明する必要は無いでしょう。ちなみに、キャラクター作成が楽しくないゲームはプレイしません。- 1-2、プレイヤーの好み通りのキャラクターが保証されない。
このことは実際には、プレロールドキャラクターを受け入れる条件を示しています。すなわち、好みがある程度保証されていれば良いということです。
クラス制とか、職業データのみとか、(技能の組合せ例としての)アーキタイプなど、いわば「数値の羅列としてのプレロールドキャラクター」ならば、大抵は自分の好み通りのものが見つかります。特に最近はプレイの機会が少なくなっておりまして、自分がプレイヤーの時はプレロールドで構わなくなっております。(ある友人(魔族)の力説に多大な影響を受けておりますが(笑)。)- 1-3、私のプレイスタイルにおける「プレイヤーとPCの関係」上、嫌。
私にとって、PCとは「別世界の別の人格」ではなく、「別世界で別の半生を送った自分自身」です。生まれ育ちがどうとか、職業がこうとか、筋力や知性がふにゃらか、というような部分は、それほど極端で無ければ合わすことが出来ます。
が、個性の設定や内面要素などが多くルール化・類型化されているルールシステムを用いている場合や、用意されたシナリオの都合からそれらが多く指定されすぎている場合は、そのプレロールドキャラクターに調子を合わせるのが困難となります。決められたデータがPCの本体である「私=鏡」の領域にまで入りこもうとするわけですから、強い拒絶反応すら起こすのです。肉体や職業経験、社会的立場などならともかく、これには耐えかねます。以上三点が、プレイヤーの立場からのプレロールドキャラクターを避ける理由です。
2、マスターとしての理由
- 2-1、キャラクター作成作業は面倒なので、自分で行いたくない。
1-1と矛盾していると思われるかもしれませんが、一プレイヤーとして自分が担当するキャラクターを作成する場合と、マスターとして必要に迫られてNPCやプレロールドキャラクターを作る場合とでは、私の意見は逆になります。
そもそもキャラクター作成ルールの面白さとは、個性的なキャラクターを設定していく過程にあります。しかしそのためには、ある程度以上複雑な過程を経ることが要求されますから、それら全員分をマスター一人で行うのは大変面倒な作業となります。また、PC全員をマスターが用意する場合はバランス等も取らなくてはなりませんので、手間や配慮が多く必要となり、大変な負担となります。ですから、簡単なルールなら簡単であるが故に、複雑なルールならマスター側の莫大な負担を減らすために、どうしても各自に作ってもらいたいのです。- 2-2、プレイヤーの好み通りのキャラクターを保証できない。
プレイヤーたちが楽しめるキャラクターを準備する自信が無い、ということです。弱気に聞こえるでしょうが、プレロールドというものに対するプレイヤーの不安や期待を一身に背負うという危険を犯したくないのです。
PCをプレロールドにするということは、作成の楽しみを奪い、どのようなPCを担当することになるかわからないという不安を与えます。プレイヤー側に払わせるこれらの代償に値するキャラクターを用意できる自信は、私にはありません。
また、PCをプレイヤーに託すということは、シナリオプレイの初期設定の重要部分を彼らに任せることになります。これは(どのようなPCを作るかでシナリオの展開が変わってしまうため)リスクを分担することを意味しますから、程好い緊張感が期待できます。また、責任のすべてがマスター側にのみあるのでは無いという安心感を得ると共に、自分一人ですべてを進めているかのような孤立感のようなものも無くすことができます。
なお、先の1-2で、私は「自分がプレイヤーの時はプレロールドで構わなくなっております」と述べました。この発言の裏には、二つの覚悟(あるいは自信)があります。ひとつは、どのようなキャラクターでも、ある程度以上楽しむという覚悟(自信)。もうひとつは、もし楽しめなかったとしてもマスターにその責任を問わないという覚悟(自信)です。私自身にはその覚悟(自信)があるからかまわないのです。しかし、これは誰にでも強要できることではありませんし、ましてマスターの側から求めて良いこととも考えません。- 2-3、私のマスタリングスタイルにおける「マスターとPCの関係」上、嫌。
1-3で述べたことの裏返しです。自分がされて嫌なことは、仮に相手のプレイスタイルが自分のそれと違うと分かっていたとしても、他の人に対してすることはできないのです。
元来、私がマスターを好んで担当するのは、「プレイヤーというブラックボックスから何が飛び出すか分からない」また「それのせいでこちらが準備してきたプロットがどのように対応していくのかわからない」という驚きやスリル、あるいは"予期せぬ新たな可能性"を味わいたいがためです。ですから、内面(性格や行動指針、運命など)をこちらから指定して、マスターの醍醐味を減らすようでは、わざわざ卓上RPGをプレイする意味が無いのです。
なお、PCの内面的な設定などをルール上あまり言及しないルールシステムにおいては、この項目は関係ありません。以上三点が、マスターの立場からのプレロールドキャラクターを避ける理由です。
結論
以上に述べた内容は、私の好みを公表しているだけの文であって、客観的な事柄について観察・考察したものではありません。論考と呼ぶには無理があるかもしれませんが、私の観点を以下にまとめてみましょう。
プレロールドキャラクターのメリット
- キャラクターを作成する時間を節約できる。(実に魅力的です)
- キャラクター作成ルールを説明する/憶える労力を無くすことができる。(特に初心者に試してもらう時には良いかもしれません)
- シナリオから逸脱しすぎるキャラクターが登場する危険を抑制できる。(私には抵抗がありますが)
プレロールドキャラクターのデメリット
- キャラクター作成の楽しみが無くなる。
- 好み通りのキャラクターが保証されない。
- キャラクター設定による"予期せぬ新たな可能性"が無くなる。
プレロールドキャラクターを採用するか否かは、参加者全員がこれらのメリットとデメリットを比較した結果、どちらを優先するかに依ります。私の場合は、メリットよりもデメリットの方が大きすぎる、という判断が働いたのです。
結論の次に来るもの:キャラクター作成ルールの可能性
結論で述べたメリットを残しつつ、デメリットを無くす方法を考えてみます。私の試案は次の通りです。
- プレロールドする範囲を決める。キャラクターの能力を表す数値や、ポイントなどにより取得する特殊能力を類型化し、内面的なものなど他の設定は後から簡単に追加できる様にする。
- プレロールドの種類を莫大なものにし、誰でも受け入れられるようにする。
- 複数の項目における各類型を、任意に組み立てていくことで、キャラクターを作成するようににする。
なお、最後の試案は、未発表ながら「クトゥルフの呼び声」用に一度作成したことがあります。結局は別のデメリットを免れていないのですが、自作サプリメントとして後日折をみて発表する予定です。
おわりに
以上で述べたことはあくまで私のプレイスタイルを前提にしたことですから、それを異にする方はまた別の視点を持たれるはずです。例えば、PCと自分の間に明確な一線を引ける者、PCの内面や運命などを他の人に勝手に決められても許容できる者であれば、私が挙げたデメリットにも異論があるでしょう。
そのようなプレイスタイルの是非を問うのはこの論考の目的ではない、ということを念のため申し添えておきます。単に、私にはそれができない、それ故考慮に入れられない、ということなのです。ただし、私が孤独な嗜好の持ち主で無く、他にも同じスタイルの者がいるのであれば、参考意見としての意義はあるものと信じます。