数値とイメージ (1997年執筆)

本論考は、1997年12月23日に発表されたものです。文中の趣旨が、現在の筆者の考察とは異なる場合もありますので、ご注意願います。

数値の決め方~私の場合~

「好きな数値を能力値欄に書き込んで下さい。・・・ダイスを振って決めても良いですよ。」

これは、私がある卓でマスターをした際、キャラクターを作成しようとするプレイヤーたちに告げた言葉です。もちろんその後には能力値の上限値・下限値・平均値またダイスの振り方の説明などが続きます。

現行の卓上RPGのルールシステムは、キャラクターの能力を数値で表すことによって、その優劣や任意の行為への適性などを表現・個性化しています。「能力値」という言葉に代表されるその数値を決める方法には、ダイスの出目による方法と、某かのポイントを割り振って決める方法とがあります。

この内、前者の方法を採用しているシステムでキャラクターを作成する時に私が使っている工夫・・・というよりは「私式の作り方」について、以下に述べます。

イメージから数値を決める

冒頭にあるような方法は、「思い通りのキャラクター」を作成するためのものです。

ダイスを振ってキャラクターを作成する方式の長所は「早く作れること」だと私は考えています。しかし実際には、ダイスの振り直しによる時間の浪費が必ずと言って良いほどあり、この長所を活かしきれていません。

「何故、ダイスを振り直すのか?」その答えのひとつは「プレイしたいキャラクターのイメージに、ダイスの出目が合わないから」であると私は考えました。その対処法として考案したのが「イメージに合った数値を書き込む」という方法です。

例えば、ダンジョンズ&ドラゴンズのルールで、R・A・ハワードの「コナン」(私が大好きなヒーローです)のイメージでキャラクターを作る場合を想定します。「コナン」は人並み外れた膂力・体力の持ち主です。 俊敏さも野獣並みで、戦闘能力抜群です。外国語などをすぐ憶えてしまう記憶力、彼なりの宗教観に基づいた敬虔さも持ち合わせています。同性・異性に関わらず相手を魅了してしまうカリスマ性の持ち主でもあります。パーティ・プレイということに配慮して多少調整するにせよ、ストレングスStrengthとコンスティテューションConstitutionは17~18、デクスタリティDexterityは15くらい。カリスマCharismaも13は欲しいし、インテリジェンスIntelligenceとウィズダムWisdomもせめて平均値9~12でなければそれらしくない・・・彼のイメージを残すのであれば。

(余談ですが、コナンが魔法を使ったことがある、ということをご存知でしょうか。私も一例しか知りませんが、過去に一度見たことがあったという魔法の護符を完全に記憶しており、地面にそれを描いて難を逃れたのです。Intelligence=魔法への適性、と考えても彼の知性は決して低くないのです。)

これらの数値は決して無茶なものではない筈ですが、これをダイスで出すとしたら大変です。多少の差には目をつぶったとしても、それこそ何度も振り直さなくてはならないでしょう。

「イメージ通りの数値」が出るまでダイスを振り直すくらいなら、最初から「イメージ通りの数値」を書き込めば良いのです。

その手順は難しいものではないでしょう。どのシステムでも、数値の表す意味=その能力の優劣の目安は提示してあるはずです。そのシステムの能力値によってイメージの人物を分析し、得手・不得手を数値化すればよろしい。

問題があるとすれば、モデルの世界における強さとキャラクターのそれに差がある場合(例:レベル1のコナンやエルリック)でしょうが、この場合は逆にモデルの方を少し変化させれば良いと考えます。例えば、知られざる若い時の姿、などを想像するのです。

数値からイメージを決める

明確なイメージ、モデルとなる人物がいない場合には、普通にダイスを振って、その数値からイメージを作り上げていきます。この方法こそが、正統派であるといって良いでしょう。

私がプレイヤーとして参加する時で、モデルが特にいない時、特に慣れないシステムをプレイする時には、こちらの方法を用います。(当たり前か。・・・でも、先の方法も他の参加者の許諾が無ければ使いませんよ、念のため。)

決定した数値から仮想人格の特徴を羅列していき、イメージを組み立てていきます。(やや、サイズSize(体重)が低いな。でも女性にする気はないぞ・・・よし、小柄な東洋人ということにしよう)が、しかし、たまにどうしてもイメージを決め難い数値の組み合わせとなる場合があります。その場合は、他の能力値と数値を交換したり、いくつかの数値を互いに足し引き(これを2、あれを1下げて、こちらを3上げよう)して許容範囲に収めます。

"高すぎる能力値"の問題

巷で良く言われる問題がこれです。例えば「全能力値18」などです。私が挙げたように数値を自分で決めるのではこの例が頻出するのではないか、という可能性に触れておきます。

すべての能力値が高いキャラクターの存在を正当化する理由には次の三つが考えられます。

  1. キャラクターのモデルがそうである。
  2. あらゆる面で強いキャラクターをやりたい。
  3. ダイスを振ったらこうなったんだ。本当だよ。

数値を自分で書き込ませるという方法は、この内1.を全面的に信用するものです。2.も同様に可能となります。しかし他のプレイヤーにも等しく権利があるので問題にはならないでしょう。3.の理由は消滅します。もし本当に振って出たとしても、有難味はありません。

重要なことは、キャラクターの数値を自分で決めるのであれば、その数値に対する「責任」が発生する、ということです。ランダムで決めたものでない以上、能力値が表す意味を無視することは許されなくなるのです。数値を自分で決めて作成した際に「その数値が表す君のキャラクターを紹介してくれ」とでも言って、その数値を採用した理由を説明してもらうと良いでしょう。

さいごに

ダイスで決まるものを任意に決める。この方法は能力値以外(職業表など)にも使うことが出来ます。共通する長所は次の三つです。

  1. ダイスの振り直しが無くなる。
  2. キャラクターの能力に責任を持つことになる。
  3. 稀な存在の有難味を無視して、本当に好みのものを選ぶことが出来る。

ちなみに冒頭の例では、私のこの発言を聞いたプレイヤーたちはしばらく考え、大抵はダイスを手にしました。もちろん、彼らがダイスを手にした時でも、能力値に対する責任は消えません。稀な出目の有難味が無くなるだけです。もちろん気に入らない数値は自由に変えることが出来ます。

ルールが提供する公平さとバランスを一部でも無視することには賛否が分かれるところでしょう。しかし、それを行う者の責任がそこにある限り、この手法がプレイヤーの迷いやプレイ時間の浪費を抑え、純粋な面白さへ近づく為の一助となりうるであろうことに、私は確信を抱いております。