日本卓上RPG界補正計画 (1997年執筆)
本論考は、1997年9月26日と9月29日、10月1日とに発表されたものです。文中の趣旨が、現在の筆者の考察とは異なる場合もありますので、ご注意願います。
はじめに
「日本卓上RPG界補正計画」
この表題をご覧になった方はどのような感想をお持ちになるでしょうか。文字通り、"日本の卓上RPGの世界(プロ=業界とアマチュアの両方を含む)を「補正」する"ことが目的です。個人が掲げるにはいささか大袈裟に過ぎるかもしれません。以下に、私がこのような計画を考え行動するに至った理由、そしてその具体的な内容とその意味について記します。なお、下記の通り三回に分けての掲載となります。
- 何を、何故「補正」するのか(目的あるいは理由)
- どうすれば「補正」できるのか(行動の指針)
- どのように「補正」するのか(行動の内容)
最初に、そんな事が出来るのか、という問いに対して答えておこうと思います。「出来ます」と。
1、何を、何故「補正」するのか(目的あるいは理由)
私は日本の卓上RPGの現状に対して不満を持っています。それは拙考「日本TRPG界の現状」でも述べました。しかし再度ここでRPG界の現状に関して考察を述べることとします。
まず昨今のRPG界の問題として良く聞かれるのが「遊び手の減少」です。何かの理由で遊ぶのを止めてしまう人数に、トレーディングカードゲーム等しかやらなくなってしまった人数を足すとかなりの数になるのでしょう。しかしこのような事はどのような趣味でもあることですから、差し迫った問題という訳ではありません。(この問題は1997年8月発売のゲーマーズフィールド誌vol.6でも僅か(p.60と61の2頁)ですが取り上げられました。RPGマガジン誌はこのことを問題とは考えていないでしょう。)
次に作品の予定された発売時期(あるいは発売そのもの)が守られない、ということも言われます。近年幾つかの新作システムの発売に絡んで言われるようになりました。しかし遊び手にとって最も不満なのは、新作の発売日よりもむしろそれ以後のサポートのための作品が貧弱なことではないでしょうか。
売り手の側からは市場の縮小を意味する前者の方が深刻に見えるでしょう。しかし買い手にとっては当然後者の方が問題です。そして本当に市場を弱体化させているのは後者の問題=サポート体制の貧弱さである事を、業界の人間が本当に知っているか正直疑問です。
以前RPGマガジン誌のコラムに「サプリメント等を発売しないのは、出してもあまり売れないからである」という売り手側の意見が掲載されました。次の号にお詫びの文が載りましたが、一度掲載されたという事はそれも本音だということでしょう。しかし、作品のサポート体制の整備こそが、買い手と売り手の間に信頼関係を築き、また継続的な購買意欲を培うものであると私は考えます。一つ一つの質は問われますが、まず量があることが重要です。量は実績となり、信頼する根拠となるからです。もし購買力が弱いというのならば、質どころか量すら保持できなかった貧弱な企画力のせいであるといえます。
さてそれでは企画するのは誰でしょうか。私は業界の仕組みを良く知りませんが、デザイナーであれ編集員であれ、ゲームの出版に携わる事で金を貰っている者=プロフェッショナル、プロと呼ばれる人達でしょう。プロでない人はアマチュアと呼ばれます。両者にはどれだけの違いがあるのでしょうか。実は力量においては大差が無い、というのがとみに最近実感していることです。プロは全ての時間と能力を使い、アマは本業の余力のみを使う。プロは金を貰い、アマは貰わない。そして、プロは払われた金額以上のことをする義務があるということも挙げておいて良いでしょう。
日本であれアメリカであれ、卓上RPG界は「プロ主導」です。プロが出した物をアマが買ってきて遊ぶのが基本的で当然な姿です。アマがプロに従うのは不自然な事ではありません。しかし、そうであるからこそ、アマはプロに対して自分の希望(あるいはわがまま)を言って良いのです。そしてプロの側は、アマが何も言えないほど満足させるか、次の希望を思い付く暇も無いほど多くの物を与えるかするのが理想でしょう。
ですから、私は今の日本の卓上RPG界に不満なのです。それは、アメリカの卓上RPG界でのサポート体制と比べて質量ともに劣っていると判断するからです。もっと多くのサプリメントやシナリオを出して欲しい。雑誌でもそれらをふんだんにサポートして欲しい。その上で新しい作品が発表されていけば言う事なし!
私のこの希望は身勝手なわがままでしょうか。いいえ!アメリカでは実現している事を日本で望んでいけない訳はありません。もしそれを無理だと言う人がいるのなら、アメリカ人に出来て日本人には出来ない理由を私たちに説明できなければならないのです。
それでも、もしどうしてもできないというのなら・・・「何かを変えなければいけない。」
私は今まで変わるのを待ちました。しかし変わる気配はありません。
「何」を「何故」補正するのか?この題に対する解答は次の通りです。
「現在の日本卓上RPG界におけるプロフェッショナルあるいは業界主導の体制」を、「その体制がアマチュアのために取り組んでいる姿勢を見せる気配が無い以上、彼らに任せておいても利益がない」ので、「補正」する。
これが、私が今回の計画に至った目的であり理由です。
(以上、9月26日)
2、どうすれば「補正」できるのか(行動の指針)
「補正」とは「足りないものをおぎない、まちがいを正しく直すこと」(小学館国語大辞典、1988)という意味です。日本卓上RPG界を補正するということは、それが抱えている不足部分・問題部分が何であるかを捉え、かつ他によって補うこととなります。
前章では、どのように「補正」すべきかを考える際の手がかりとなるものを二つ挙げました。一つは「現行の貧弱なサポート体制」であり、もう一つは「それを直そうとする気が無い、もしくは直すだけの力が無いプロフェッショナル主導の体制」です。次にその各々に基づいてどのような行動を成しうるかについて考えてみます。
まずサポート体制についてですが、これについての考察は(このページにおいては脇役であるにも関わらず)いささか長くなり過ぎてしまった感がありますので、別ページにすることとしました。確認したい際にこちらをお読み下さい。
結果だけ申し上げると、理想的なサポート体制に求められるのは「必要かつ良質で安いもの」を可能な限り多く出すことであり、それを実現するためには「ユーザーが何を欲しがっているを知る」「実用性が高いと同時に、取捨選択の余地があるものを作る」「買いやすい値段を付けられるように工夫する」という行動が必要となる、ということです。
次に「プロフェッショナル主導の体制」をどのように変えていくかという問題です。
結論から言います。私が行き着いた考えは「プロフェッショナルに追従するアマチュア」という構図を「プロフェッショナル対アマチュア」という構図に切り替える事でした。
この結論に行き着いた理由となったのは、現行体制に対する不満もさる事ながら、デザイナーであれ編集者であれプロフェッショナルの批判力が著しく弱いことです。別の言い方をすると、作品を「良い」と評価しても「悪い」とは評価しないということです。
ある新作が発売された時、買うか買うまいか迷っているユーザーにとって最も助けになるのは雑誌などのレビュー(作品の評価)です。作品を熟読したプロの目によって書かれたレビューは、その作品の内容の簡単な説明、出来の良さ、どれほど必要とされるかなどを、厳しく暴き出します。数段階に分かれた点数評価などを用いて、「誰もが買うべき最高の作品!」から「~に興味のある人は買いましょう」「どっちでもよい」更には「金の無駄」までハッキリとした評価がされます。ただし、これは欧米の雑誌の話であって、我が国の事情ではありませんが。
私の知りうる限り日本の雑誌などでのレビューでは良い評価がほぼ全てを占めるのが常であり、これでは「とにかく買え」と言っているも同然です。その癖、それほどの評価を受けた作品が一年経たずしてサポートがほとんど見られなくなったりもします。最近ではレビュー自体をほとんど見なくなりましたが、このような評価を続けていた結果、誰もそれを信用しなくなったせいかもしれません。レビューはこれからそれを買う人間に利益を与えるものでなくてはならず、良いところばかりを褒め称えるのでは正当な評価とは言えませんから。このような現象の原因が、知り合いだらけの業界構造にあるのか、何かプロとしての厳しさを許さぬ都合があるのか、それとも国民性に起因するものかは分かりません。買手にとってはどうでも良いことです。
さて、ここで私の行き着いた方針の内容を明らかにしましょう。
一つには、今までプロに任せていた「RPGのサポート」を我々アマチュアがやってしまおうということです。もちろんオフィシャルなものとしては評価されませんし、苦労に値するだけの報酬がある訳でもありません。しかし今そのゲームを楽しむためにはその方が手っ取り早いのです。
次に、プロ同士では馴れ合いのような状況にあるレビューにおいても、代わりにアマチュアがもっと厳しく、かつ公正な発言をしていこうということです。少なくとも我々は、ある作品を「同業者の作品」や「知人の作品」としてでもなく、また「我が社の製品」や「~社さんの製品」としてでもなく、金を払って買った「商品」として評価する事が出来るのですから。
これらの行為によって何が起こりうるでしょうか。プロフェッショナルとアマチュアの対立は何を生み出すでしょうか。次々公表されるアマチュアからの忌憚無い発言は、プロの側に緊張感を与えるでしょう。下手な作品は作れません。消費者によるレビューが目を光らせていますし、並行して作られるアマチュア作品以上のものを作らねばプロのプライドが許さないでしょう。また、現状においてどのように行われているか分からない市場調査の代わりにもなります。このことは、アマチュアの要求がより一層出版に反映することを意味しています。
この計画の最初の具体的な活動の行動指針は、以上の通りです。すなわち、アマチュアがRPGのサポート(サプリメント類やシナリオの作成、厳しく公正なレビュー)に積極的に手を出していこうというものです。
さてここまでお読みになって失望を感じた方もいらっしゃるでしょう。もうお気づきでしょうが、これらはすでに多くのサイトにおいてベテラン諸氏が実行に移している事です。何を今更、と思われた方も多いことでしょう。しかしもうしばらくお聞き下さい。なるほど確かに優れたアマチュア作品が多く発表されています。しかし今のままではまだ弱点があるのです。
つい先日私も身をもって味わったのですが、欲しい情報を速やかに入手すること、またあるシステムについてどのような情報があるのかを知ることという二点を補う必要があるのです。
私の「日本卓上RPG界補正計画」の行動指針には、アマチュアの発言力の強化によって情報を補うことの他に、それらの情報を速やかに流通させる工夫を行うというもう一つの目標が含まれております。そしてこの計画の最初の行動は後者のためのものなのです。その具体的な行動内容は次の章で明らかにすることとします。
(以上、9月29日)
3、どのように「補正」するのか(行動の内容)
私がこの度企画した「日本卓上RPG界補正計画」の趣旨は、前章で述べた通り次の二つです。
- プロフェッショナルに代わり、アマチュアが積極的にRPG作品のサポートを行う。
- その情報を、それを欲しがる者に入手しやすいように補佐する。
前者は、私などが言うまでもなく、既に多くのベテランによって実行されています。よって私がこの度主眼とするのは後者です。私はその実行手段として、その目的のためだけに構成された「リンク集」を設ける事にしました。
以下は、その内容です。
- ゲームに関する論文のテーマ別リンク
アマチュア諸氏が論じたゲームに関する考察を、テーマ別に整理した上でリンクで結びます。テーマには次の八つを準備しました。なお、論文に関してのみ、投稿も受け付けます。
- 「RPG概論」RPG全般に関する論や、入門者への紹介など
- 「プレイング」ゲームに参加する際の心構えや工夫など
- 「マスタリング」マスターを行う際の心構えや工夫など
- 「シナリオ」シナリオを作成し、また使用することに関する論
- 「ジャンル」RPGの各ジャンル全般を論じた考察
- 「デザイン」ゲームシステムやサプリメントなどのデザインについて
- 「RPGの現状と可能性」RPGの現在と未来を語った論
- 「その他」上記のいずれにも当てはまらないもの
- レビューのリンク
市販されている作品に対する評価や紹介文を、システム別に整理した上でリンクで結びます。同じ作品に対して、視点の異なる複数のレビューが提供されるのが理想的です。- サプリメントのリンク
市販されている作品の愛好家の手によって作成された追加データやハウスルールを、システム別に整理した上でリンクで結びます。同じ作品の同じテーマに対して複数のサプリメントが登録されれば、その中での取捨選択が可能となります。- シナリオのリンク
市販されている作品の愛好家の手によって作成されたシナリオを、システム別に整理した上でリンクで結びます。- システム別リスト
上記2~3をシステム別に整理した一覧表です。迅速な情報交換を考慮して、各システムをテーマとした掲示板へもリンクします。- 自作システムのリンク
市販作品に無い何かを求めて、アマチュア諸氏が作成したゲームシステムを、ジャンル別に整理した上でリンクで結びます。- 求む!情報
登録された中に欲しい情報が無かった場合には、この掲示板宛のフォームにそれを書いて送って下さい。どのような情報が求められているかが分かれば、広いインターネットの世界のどこかでそれを見かけた方が教えてくれるかもしれません。どこにも無ければ・・・それをこれから作れば良いのです。以上の内容を持ったリンク集に私は「RPG日本」の名を与えました。このサイトは既に試験運転を終え、稼働中です。これから情報を集めるべく動き始めつつあります。トップページとこのページの下端からリンクを結んでおりますので、興味を感じた方はどうか一度ご覧ください。
この計画における私の最初の行動は、以上の通りです。
おわりに
さて、私のこの計画は、実はある意味負けに終わることが既に分かっています。何故なら私が大袈裟に語った行動は、そのほとんどがアメリカ等でプロが行っていることの真似だからです。
我々がインターネットで提供する情報はすべて無料です。他方、プロが与える情報は金を払って手に入れるものです。では皆、前者を選ぶでしょうか?
否、プロが本気を出せば、我々は自分たちがアマチュアに過ぎない事を思い知るでしょう。そのような敗北こそ私が望むものです。そうしたら、その時にまた、次に私に出来る事が何であるかを考える事にしましょう。
しかし・・・おそらく無い事ですし、あっては困るのですが・・・もし万が一最後まで無料の方が選ばれてしまったら?どうなるかは言うまでもないでしょう。考えたくもありません。
未来の事は、嬉しい事に何も分かりません。この今にも倒れそうな大看板を背負って、私は「戦」を始めるつもりです。どこかで敗北を信じつつ、しかし全力で。夢のような事です。勝っても負けても損はないのですから。
この行為に興味を持ってくれる方が少しでもいれれば嬉しく思います。これが私に今できる行動なのです。
以上、長文をお付き合いいただけましたことに対し心より感謝申し上げます。
(以上、10月1日)