人系列シナリオの作り方 (1997年執筆)
本論考は、1997年5月30日に発表されたものです。文中の趣旨が、現在の筆者の考察とは異なる場合もありますので、ご注意願います。
キャラクターが自由に活躍するためには
どのような展開にも対応できるシナリオが必要です。(場系列と時系列)
ホビージャパン社が現在の「RPGマガジン」誌の前身である「タクテクス」誌を刊行していた頃、その別冊として「RPGマガジン」全2号が出版されました。その1冊に「ローズトゥロードRPG」を主題として、シナリオ作成に関する記事がありました。
その中で「場系列シナリオ」と「時系列シナリオ」とがシナリオの二通りの構成として紹介されていました。(用語は間違っているかもしれません。)->訂正
- 場系列シナリオ:ダンジョンや街の中の特定の場所にキャラクターが行ったとき、どのようなことが起こるかを決めたシナリオ。いわゆる「ダンジョン型シナリオ」に多い。マスターが同時に扱う情報が限定されるため管理が容易であるが、イベントが単純化・類型化しやすい。
- 時系列シナリオ:ゲーム内時間が特定の日付けや時刻などに達したときに起こることを決めたシナリオ。時間の概念が意識されるため緊張感やストーリー性が強調されるが、キャラクターの動きとの整合性を考慮しなければならないため、管理が難しい。
これら二つは実際には別個に存在するものではなく、極端な例を除けば、ほとんどのシナリオがその両面を持っています。
(そして「人系列」)
このページで提示する「人系列」もまた、必ずしも新しい概念ではなく、既存のシナリオが持っている一面に過ぎません。「場系列」や「時系列」がそうであるように、どの要素を強調するかの違いです。ただ自分の経験から、「場」でも「時」でもなく、「人」を基本にしてシナリオを作ることがもっともプレイにおいて融通の利くものでありやすいと考えます。
- 人系列シナリオ:主人公以外の登場人物(NPC)の設定・考え方・目的などを各々設定した上で、起こりうる事件を用意したシナリオ。事件が中心なのではなく、あくまで人の思惑と行動が中心なので、PCが予期せぬ行動をとった際にも対処しやすい。ただし複数のキャラクターの心理の動きを追跡しなければならないため、管理は難しい。
(用語)
この方式では「人」が主になりますが、同時に扱えるキャラクター数の限界を考慮して、私は次のような用語によってキャラクターの役割を明確にしています。
- 「主人公」または「主役」:プレイヤーの管理するキャラクター。事件に立ち向かうことになる。
- 「脇役」:シナリオ内の事件に大きく関わる、主要なNPC。人格設定が不可欠。(私は5~6人を目安としています。)
- 「端役」:情報流通など、シナリオの円滑な進行のために存在するNPC。出ても出なくとも、用意してあってもアドリブで作成しても大差ない存在。
(作成手順)
次に私がよく行う「人系列シナリオ」の作成手順の一例を記します。
- 過去の事件を決める。
- 過去の事件と「脇役」の関係を決める。
- それが「脇役」の現在までの過程にどのような影響を与えたかを考慮した上で「脇役」の現在の人格を設定する。
- 「脇役」の現在の状況と、目指している目標を決める。
- 「脇役」が取りうる行動を、推測されうる状況ごとに想定する。
- 「主人公」が「脇役」の運命に関わり合う「発端」を想定する。
- 「脇役」と「主人公」との間に生じうる関係を想定する。
- 「脇役」と「主人公」の間に立つ「端役」を設定する。
- プレイの時まで、想定事項についてあらゆる可能性を考えつつ、シナリオを練りつづける。
(プレイの際の注意点)
上記の手順で作成したシナリオをもってプレイに臨んだ際には、また次のようなことに留意します。
- 「主人公」と舞台となる世界との関係づけ(一部「脇役」との関係、人脈の設定など)を行う。
- 「主人公」の設定や人格、目標などを確認しつつ、「主人公」同士の関係を設定させる。
- 「脇役」が行動する場合には、その者の人格とその者の視点からの現状とを考慮して、もっとも取りうる行動を選択する。
- 「脇役」は脇に徹する。
- 「端役」はいかにも端役らしくプレイすると楽。その分「脇役」に労力を注ぐ。
(人系列シナリオのすすめ)
「人系列シナリオ」においては、「脇役」NPCは「過去」(事件との関わり合い)と「現在」(現在取りつつある行動)と「未来」(目指している目標)をもっています。もし「主人公」の行動が彼らの行動に影響を及ぼした場合には、その「脇役」は自分の人格・現状・他者への感情・将来の目標とを考え合わせて、次の行動を決めれば良いのです。「人系列シナリオ」の特徴は、「脇役」に行動を決める手がかりを系統的に与えることだと言えるでしょう。
「人系列シナリオ」におけるマスタリングは、PCを複数同時に扱うようなものであって、大変な労力を必要とします。しかしNPCの各々に対してその人格と目標を設定し、状況に応じて人格の動きを推し量り行動を決めていくことで、ともすれば人形のようになりがちなNPCはPCと同じくらい血肉の通った存在となるでしょう。
シナリオは「決めておいてなぞるもの」ではなく、「考えながら作っていくもの」となるのです。このシナリオ作成法は、現在の私にとってもっとも融通の利くシナリオを作るためのフォーマットなのです。
このようなシナリオを試したことのない方には一度お試しになることをお勧めいたします。諸氏のシナリオ作成とマスタリング研鑚に対し、僅かなりとも参考になることを祈ります。
古谷俊一さんから、私が「場系列シナリオ」「時系列シナリオ」としているのは、「場系列イベント」「時系列イベント」の誤りであるとのご指摘がありました。そうすると私の「人系列シナリオ」というのも、「人系列イベント」あるいは「人物系列イベント」と称するべきところであります。本文の訂正は行いませんが、補足させていただきます。古谷さん、お教えいただきありがとうございました。(1997年7月11日)