「予断の不一致」とドラマ作成ポイント

誰が誰に首ナイフするのか」で述べた「ルールと予断との不一致」は、「ドラマ作成ポイント」を採用したルールシステムでは生じません。しかしながら、そこでは別の「不一致」が生じ、より重篤な問題を起こす恐れがあります。以下、起こりうる問題とそれへの対策について述べます。「首ナイフ」というよりはルールデザイン論。

サイコロの出目などによって結果が決まる」ルールシステムでは、「予断」という「作為」がサイコロの出目などの「無作為」に影響を与えないため、ルールに従えば「予断」通りの結果が得られないことがあります。その場合、「予断」を捨てルールに従うか、ルールを無視し「予断」に拘るか、どちらかを選ばなくてはなりません。

他方、「何らかの数値を消費することで、望み通りの結果を得る」ルールシステムがあり、その「消費される数値」をここでは「ドラマ作成ポイント」と呼ぶこととします。「無作為」を排し、ルール通りに「ドラマ作成ポイント」を消費すれば「予断」即ち「作為」通りの結果が得られるので、「ルールと予断との不一致」は起こりません。

「ドラマ作成ポイント」採用のデザイン例を幾つか挙げると、次の通り。ただし前二者は、部分的な採用にとどめており、「無作為に結果が決まる」部分も併用しています。

  • Trail of Cthulhu』など『Gumshoe』システムの「Investigative Ability
  • トーキョーNOVA』シリーズの「神業」など (使用一回を1ポイントと解釈)
  • 金色老子さん作『system』RPGの「行動ポイント」と「障害ポイント
  • おまけ:『metsys』の「アクションカード」など (一枚を1ポイントと解釈)

さて、「ドラマ作成ポイント」における重篤な問題とは、「予断の内容の不一致」によって起こります。ある遊び手にとって望ましい「予断」の内容が、他の遊び手にとって望ましくない場合において。あるいは、ある遊び手にとってはそうなるのが「常識」である「予断」が、他の遊び手にとっては「非常識」である場合において。

求める結果が遊び手の間で異なり、どの結果に至るかが「ドラマ作成ポイント」の消費によって決まるのであれば、遊び手同士で消費を競い争うこととなります。どちらも譲らなければ、決着がつくまで競争は続き、ゲームプレイは停滞します。勝者と敗者のみならず、争いを見せられた他の遊び手にも、不快や禍根が残るでしょう。

例えば、「首をナイフで切られたら即死」という「予断」を「常識」と信じる者は、そうさせまいと「ドラマ作成ポイント」を消費する者の「非常識」を許し難く、全てを費やしてでも「常識」を通そうとするかも知れません。そのような駆け引きを楽しめない者に配慮するなら、そうならない対策をルールに組み込む必要があります。

なお、上記デザイン例の内「Investigative Ability」と「神業」では、「予断の内容の不一致」は生じません。前者は、「ドラマ作成ポイント」消費で得られる結果が情報収集に限られるためです。後者は、「神業」への対抗手段が限られており、また「ゴールデンルール」がゲームマスターに「予断」の選択権を独占させるからです。

system』でどのような対策が図られているか、正直なところ私には理解できておりませんが。「ドラマ作成ポイント」を対抗判定にも消費できるなら、何らかの対策が要求されます。ついでにいうと、プレイヤーに比してゲームマスターが圧倒的に多くポイントを持つなら、ゲームマスターはゲームプレイを「独裁」できます。

「予断の内容の不一致」の対策例について、以下に示します。例えば、遊び手Aと遊び手Bが消費を競い、最終的にAが55000、Bは45000のポイントを消費したとして、次のような処理がありえます。

  1. Aが望む結果となる。AとBが消費したポイントは双方とも失われる。
  2. Aが望む結果となる。Aが消費したポイントは失われ、Bは返却される。
  3. 55%の確率でAが、45%でBが望む結果となる。ポイントは双方失われる。

上記1は何ら対策しておらず、ポイントが少ないのに抗うことは無意味です。2では、ある結果を諦めれば、次の機会に有利になります。3は、「作為」の競争を「無作為」で決めるものです。「無作為」に決着をつけるなら、さして禍根は残りません。負けた恨みは、相手にではなく、サイコロにぶつけるしかありませんので。

もうひとつの解決策に、消費のやり方を決めてしまう、というやり方もあります。それは、あれやこれや考える内にできてしまったルールシステムに組み込んで、次回紹介します。