CoC用FEAR型成長点ルール

今回はちょいと悪戯。私が最も愛好する「クトゥルフ神話TRPG」(Call of Cthulhu;以下CoC)に、無理矢理「FEAR型成長点ルール」を導入するとどうなるか、という思考実験をしてみます。『AR2E』における「成長点の配布」の2~4番目に相当する部分を入れ替えることになります。

もっとも、ご存知の通りCoCには、「成長点」に相当するルールはありません。「技能」は、点数ではなく確率で成長しますよ、さぁ困った。取りあえず、「成長点によるPCの成長」は考えず、「成長点の配布」だけ作ります。手順は次の通り。

  1. ゲームマスターとプレイヤーとにやらせたい遊び方を決める
  2. その遊び方になるような行為や能力値等の数値変化を考える
  3. その行為や数値の変化によって成長点が得られるようにする

まず、ゲームデザイナーは、ユーザー(ゲームマスターとプレイヤーと)に、そのゲームシステムをどのように遊んで欲しいか、を決めなくてはなりません。ここではプレイヤー担当のキャラクター(PC)が「死んだり狂ったりしていくのを楽しむ」という遊び方を選んだことにしておきましょう。

次に、「死んだり狂ったり」するような行為や、それを示す能力値等の数値変化について考えます。一つ目は露骨に、PCが死んだり狂ったりした場合。二つ目として、破滅までの途中であっても「正気度」が減っただけ貰えることとします。三つ目に、せっかく作ったシナリオなのだから、その真実を知ってから破滅して欲しい、ともします。

後は、これらで何点の「成長点」が得られることにするか、を決めるだけ。例えば、次の通り。

  • PCが破滅(死ぬか完全に狂うか)したなら、3点
  • シナリオ中に減った「正気度」2につき、1点
  • シナリオの真実を知った(とGMが判断した)ら、5点

上記のルールで「成長点」を多く貰おうと思えば、プレイヤーはPCに、身体的にも精神的にも最も危険そうな行動をさせつつ、シナリオの真実に迫ろうとするでしょう。もちろんゲームマスター(キーパー)も、シナリオの真実を知る過程に、正気度を減らす機会をたっぷり盛り込んだシナリオを作ることでしょう。

他には、真実がクトゥルフ神話と関係あれば何点、神話生物と遭遇したら何点、クトゥルフ神話的固有名詞をPCが知る度に1点、クトゥルフ神話技能が1%増える度に1点、などとしておけば、必ずクトゥルフ神話と直結したシナリオが求められます。Non-Mythos(非クトゥルフ神話)シナリオなど、お呼びではありません。

更には、あるPCの行動やその結果が他のPCの正気度を下げたなら何点、とした日には、さぞや恐ろしいゲームプレイとなりそうで...。

さて、もし「遊び方」が変わるなら、どうなるでしょう。例えば、PCが「人類を守るべくクトゥルフ神話の脅威と対決するのを楽しむ」とした場合では?以下、試案。具体的な点数は省略。

  • 邪悪な陰謀を食い止めたなら、...点
  • 神話生物を撃退したなら、...点
  • 危機から救った重要NPC一人当たり、...点

最後に、どちらにしても忘れていけないのは、次のような「ゴールデンルール」を明示しておくことです。

セッションの目的
(中略)
最初の説明でも書いたが、TRPGは参加者全員が"楽しい"と思えば勝利である。では、参加者全員が"楽しい"と思える――つまり、勝利する条件とはなんだろうか。
この条件について、『CoC』では、もう少し具体的に定義してみたい。なぜなら、勝利することを実現するためにどのように行動するべきかを、参加者それぞれに考えてもらった方がセッションが面白くなる――と我々は考えているからである。
それでは、『CoC』の勝利について定義しよう。
とはいっても、それほど難しいことではない。参加者全員ができるだけ多くの成長点を得る。それが『CoC』における勝利である。
そして、『CoC』はそのように行動したセッションが面白く、そして楽しいも のになるようにデザインされている。成長点を得るための項目に「セッションに最後まで参加した」「他のプレイヤーを助けるような発言や行動を行った」 「セッションの進行を助けた」などがあるのもそのためだ。
全参加者が協力したり、助け合ったりすることで多くの成長点を得る――これを『CoC』のセッションの目的として、プレイして欲しい。

...などと。

このように記載して「成長点を少しでも減らすような行動は、セッションをつまらなくすることである」と暗示しておけば、「成長点の配布」ルールに逆行する行動や考えを封じることができます。ゲームマスターやプレイヤーの誰もが、(成長点ルールおよびゴールデンルールの)ゲームデザイナーが期待する通りに遊ぶよう「管理」できるわけです。

しかし実際のCoCには、そのようなルールはありません。ゲームデザイナーが作成したルールシステム(および世界設定)でどのように遊ぶかは、ゲームマスターとプレイヤーとが「自分で決める」(自由)、あるいは成り行きで決まることです。そこにはどのようなヒエラルキーが成立するのか、次回述べる予定です。