判定ルールとシナリオ作成

先の論考「『クトゥルフ神話TRPG』非模範的相談室」の捕捉を兼ねて、また「遊び方」(遊戯法)の部分的実例として、判定ルールに合わせてシナリオを作ることについての考察をまとめます。

卓上RPGのルールシステムの内、キャラクターが試みた(一回の)行動が「上手くいったか否か」を決める手順を、ここでは「判定ルール」と呼びます。サイコロを用いるもの、カードを用いるものなど、判定ルールは多種多様ですが、その性格から次の三つに分類できます。

  • 成功か失敗かに分ける判定ルール
  • 成功の度合いを決める判定ルール
  • 得意なら必ず成功する判定ルール

以下、三種の判定ルールの事例を「クトゥルフ神話」を扱った卓上RPGシステムから挙げ、それに適したシナリオの作り方について私の考えを示します。

成功か失敗かに分ける判定ルール
この判定ルールでは、「成功」する可能性も「失敗」する可能性も共に常にあり、どちらになるかはサイコロの出目などによって決まる。確率の多少はあれども、判定結果はゲームマスターであっても管理できない
クトゥルフ神話TRPG』(Call of Cthulhu;BRPシステム)や『Realms of Cthulhu』(Savage Worldsシステム)が典型例。また、『コール・オブ・クトゥルフD20』(D20システム)や『Shadows of Cthulhu』(T20システム)で、難易度を事前に示してから判定させる場合。
シナリオ作成では、各判定ごとに「成功した場合の結果」と「失敗した時の結果」とを、両方とも想定しておくのが良い。そうしておけば、成功を期待していたのに失敗した、失敗すると思っていたら成功した、としてもゲームプレイが停滞するのを避けられるので。つまり判定とは、その成否によってゲームプレイの展開が分岐する時に行われるものである。
成功の度合いを決める判定ルール
この判定ルールでは、サイコロの出目などによって「どれだけ上手くできたか」が決まる。「上手くできなかった」としても「何もできなかった」わけではない、と解釈することで、判定結果をゲームマスターが管理することができる
コール オブ クトゥルフ d20』(D20システム)や『Shadows of Cthulhu』(T20システム)で、難易度を事前に示さず、成功の度合いがどの難易度まで達したか、によって結果を決める場合。また、あらゆる判定ルールで、失敗を「最低の成功」と見なす場合。
シナリオ作成では、各判定ごとに「必要最低限の結果」と「より有利な結果」とを、段階的に用意しておくのが良い。成功の度合いが最も低かった時には「必要最低限の結果」を示し、度合いが高ければ「より有利な結果」を与えるのである。「必要最低限の結果」だけで、プレイヤーになぞって欲しい筋道(ストーリーなど)を構築できれば、そのシナリオには「失敗」が無いこととなる。
得意なら必ず成功する判定ルール
この判定ルールでは、指定されたデータをキャラクターが取得していれば、サイコロなどを用いずに、成功となる。取得していなければ失敗。判定結果は、シナリオとキャラクターとの組み合わせによって変わっていくものとなる。
Trail of Cthulhu』(Gumshoeシステム)の「情報収集判定」が典型例。また、『クトゥルフ神話TRPG』(BRPシステム)で技能値がある%以上あれば成功、などとする場合。
シナリオ作成では、「必要最低限の結果が得られる判定」と「より有利な結果となる判定」とを用意しておくのが良い。前者には、キャラクターの誰かが取得しているデータを指定しなくてはならない。後者なら、誰も取得しないかも知れないデータでも構わない。前者であっても、キャラクターが別行動を取るなどした場合には、「必要最低限の結果」すら得られず、シナリオが「失敗」に終わる可能性が残る

さて、上記三種の分類は大雑把なもので、厳密にはいずれにも当て嵌まらない判定ルールもあります。例えば「クトゥルフ神話」を扱う作品でも、『Trail of Cthulhu』の「一般行動判定」は上記のいずれでもありません。ゲームをデザインする立場から見るならば、新しいアイデアを盛り込む余地がまだまだ残っている、とも言えます。過去の分類から、分類を超えた未来が生まれるのです。

どのような判定ルールを用いるにせよ、シナリオ中に複数の結果を想定しなくてはならない、という点は共通します。判定ルールを使う度に、ゲームプレイの展開は自然と拡散していくのです。これこそが卓上RPG特有の性格であり、小説や映画などと明確に異なる点です。逆に、ゲームプレイを一つの展開に収束させたいなら、そのための判定ルールをデザインするか、まったく異質な工夫が必要となります。

展開の拡散は、判定ルールを複数回運用することで成立する「戦闘」などで、より重要となります。プレイヤー側が勝った場合と負けた場合、降伏した場合や逃げた場合、うまく交渉に持ち込んで和解した場合など、どれになってもゲームマスターは「どうなるか?」を判断しなくてはなりません。

で、展開が拡散しても対応できるシナリオ作成法の例示は、今回は省きます。一例というか、私が日頃使っている技法は14年前に書いた論考から進歩してませんので、改めてまとめるほどのものではないような。

ともかく、選んだ判定ルールに合わせてシナリオを作るのか、作りたいシナリオに合わせて判定ルールを選ぶのか、それもまた「遊び方」の選択肢なのです。その意味で、多くの判定ルールが提供されている「クトゥルフ神話」物の卓上RPGは、遊び手にとって豊かで幸せな環境が整っています。善き哉!