リプレイはアメリカ生まれ
- 2011年6月15日更新 : RWS管理人さんから『Call of Cthulhu』(英語版、第1版)ルールブックには「リプレイの文章」は無いとの情報をいただき、本文を訂正いたしました。有難うございました。
「リプレイはアメリカ生まれ」という標題は、間違ってはいませんが、正確でもありません。「リプレイは日本生まれ」と言うのと同じくらいに。どちらが屁理屈か、とかは、読者が自分の責任で判断されたし。
まず、「リプレイ」に関する三つの文章を引用します。
意外に思われるかもしれないが、実はアメリカには、リプレイなんて読み物は存在しない。日本が、それもSNEが生み出した完全にオリジナルな文化なのだ!
...ベーテ・有理・黒崎『ソードワールド2.0リプレイfrom USA(1), 蛮族英雄―バルバロスヒーロー―』(富士見書房、2010) p.7
そこで、当時としては画期的な方法を試みようとした。リプレイである。(中略)ルールブックにときおり載っている簡単な会話でのほんの数行の紹介を、思いきってロングバージョンにして、それだけでも読み物として楽しめるようなものにしようと考えた。
...安田均「旅人よ―ボン・ヴォワヤージュ!」『RPGamer Vol.5』(国際通信社、2004) p.7
Dick : So we're on Palnu looking for a job. Any offers ?
Tom : (中略) While resting in a hotel between jobs, the players are approached by a young lady in flowing robes who identifies herself as the daughter of a local noble. (中略) What are you doing ?
(3ページ分省略)
Gloria : Damn !
Dick : What ?
Gloria : He can follow us by asking the dispatcher too !
Harry : Bribe? Why we don't bribe the driver to give a false destination to his dispatcher ? (後略)
...「Appendix I : Session」『Traveller Book 0 : An Introduction to Traveller』(Game Designers' Workshop、1981) p.38~42
「ほんの数行」は「ほんの数ページ」の間違いでしょ?とか、「ロングバージョン」にすれば「完全にオリジナルな文化」になるのか?とか、ここではさておきます。特に後者については、別途に論じるかも知れませんが。
さて、卓上RPGにおける「リプレイ」の成立について、私は五つの段階に分けて考えています。それらの要素なり形態なりを、成立した順に並べると、次の通り。
- リプレイの書式。発話者名とそのセリフとを並べたもの。基本は戯曲(劇文学)に倣うが、単なる「台詞とト書き(行動)」ではなく、「プレイヤーやゲームマスターの台詞」として「担当キャラクターの台詞とト書き」を示す。プレイヤーやゲームマスターが心の中で思ったことまで記すものもある。アメリカ生まれ。
- リプレイの文章。「リプレイの書式」を用いてゲームプレイの一例を示したもの。ゲームプレイの実態を教える、ルールシステムの運用例を示す、ジャンル独特の雰囲気を伝えるなどの機能があり、どれを強調するかは様々。アメリカ生まれ。
- リプレイの記事。「リプレイの文章」を雑誌の記事として掲載、あるいは連載したもの。大抵は「リプレイの文章」よりも長い。日本生まれ。アメリカには無い(はず)。
- リプレイの名称。「リプレイの文章」等に「リプレイ」という名前が与えられた。日本生まれ。アメリカでは用いられていない(はず)。
- リプレイの書籍。「リプレイの記事」の連載を一冊の本にまとめたもの、あるいは書き下ろしたもの。「リプレイの記事」よりも更に長い。日本生まれ。アメリカには無い(はず)。
以下、上記1~5の具体例を、私の趣味で幾つか選んで、並べておきます。なお、同年内での発表時期は順不同です。
- 1977年
- ※参考 : 『Traveller』(英語版)ルールブック(Book 1~3)に「リプレイの文章」無し
- 1981年
※参考 : 『Call of Cthulhu』(英語版、第1版)ルールブックに「リプレイの文章」未確認- ※参考 : 『Call of Cthulhu』(英語版、第1版)ルールブックに「リプレイの文章」無し (情報提供 : RWS管理人さん)
- リプレイの文章「Appendix I : Session」...『Traveller』(英語版)ルールブックBook 0
- 1983年
- リプレイの文章「An Example of Play」...『Call of Cthulhu』(英語版、第2版)ルールブック
- 1984年
- ※参考 : 『トラベラー』(日本語版)に「リプレイの文章」無し
- リプレイの記事「トラベラーをアドベンチャーする」...『タクテクス』誌18号
- リプレイの文章...『ローズ・トゥ・ロード』(第1版)ルールブック
- 1986年
- リプレイの文章「プレイの例」...『クトゥルフの呼び声』(日本語版)ルールブック
- リプレイの記事「ロードス島戦記」連載開始 ...『コンプティーク』誌9月号
冒頭の「アメリカ生まれ」か「日本生まれ」かは、上記4「リプレイの名称」が分岐点となります。「リプレイ」という名称が与えられる前のものを「リプレイ」に含めるのであれば、「リプレイはアメリカ生まれ」となります。含めなければ、「リプレイは日本生まれ」となるのです。どちらであるか、が決まらない限りは、結論も定まりません。
「リプレイ」という名称が用いられたのは「ロードス島戦記」以後であったように憶えていますが、確認はできておりません。それ以後のみを「リプレイ」と限るならば、それ以前の「トラベラーをアドベンチャーする」(著者:小宮山康宏)などとの比較にも意義が生まれます。実際、興味深い違いがありますし。
以上は専ら、事実の羅列。これらから考察に進めるか否かは、気分次第にて。