シナリオ構成要素としての「シーン」 (TORG型シーン制)
シナリオを「シーン」(Scene)の連続として構成する手法は、「TORG」(トーグ;West End Games社1990、日本語版は新紀元社1993)において初めて導入されました。このような「遊び方」を、ここでは「TORG型シーン制」と呼ぶこととします。
「TORG型シーン制」は、「ヴァンパイア・ザ・マスカレード」や、2ndまでの「トーキョーNOVA」、「キャッスル・ファルケンシュタイン」、近年では「深淵 第二版」などで、基本的な遊び方として採用されています。ゲームシステムではありませんが、「馬場秀和のマスターリング講座」第2章で示された「シナリオウェブ」も、これの一種です。
なお、上記の各作品において「シーン」に相当する語は、「場」「場面」「シーン」など様々ですが、本論考では便宜上、統一して「シーン」と称します。
さて、「TORG型シーン制」において、「シーン」は次のように用いられます。
- シナリオは、その展開に必要な「シーン」を複数集めたものとして、作成される。
- ゲームマスターは、シナリオの「シーン」を、ひとつずつプレイヤーに示していく。
- プレイヤーは、示された「シーン」に自分のキャラクターを登場させ、行動させる。
キャラクターはゲームプレイの中で、「シーン」から「シーン」へと移行していきます。すべての「シーン」において、息もつかせぬアクション満載の映画のように、キャラクターが活躍する機会が待ち受けています。シナリオとは無関係な時間やキャラクターの行動は、「省略される」というよりも、「存在しない」かのように扱われます。
このようなシナリオは、まさに映画を創るかのようにデザインされます。ストーリーから「シーン」を抽出し、並べたものがシナリオとなります。「シーン」内でのキャラクターの行動によって分岐が起こりうる点を除けば、映画や小説の創作技法を応用できる部分は多く、物語を創造する悦びを求める者にとって魅力的な作業となるでしょう。ゲームマスターとプレイヤーとの間には、作家と読者とに似た関係も成立しえます。
プレイヤーがキャラクターにさせた行動によって、事前に用意されていない「シーン」が急遽追加されることは、それをゲームマスターがシナリオ展開上で有意義と判断した場合に限って、起こりえます。もっとも、シナリオの全体像を知らないプレイヤーが故意にそれを求めることは、稀なことと思われます。むしろ、「シーン」展開はゲームマスターに任せ、与えられた「シーン」の中でどのように活躍するか、に注力することとなるでしょう。
シナリオのための「シーン」が「ゲームマスター主導」で与えられ、プレイヤーは「シーン」の中での活躍を楽しむ。これが「TORG型シーン制」の特徴です。