キャストの中のメタ
「キャラクターの中のメタ」の4番目は、「キャスト」について。それをPCの呼称とするトーキョーNOVAに限りません。
「キャスト」(Cast)とは演劇や映画における「配役」のことであり、ストーリー上の重要な役割が俳優に配されること(キャスティング)です。卓上RPGでは、PC全員をまとめて「冒険者」などとするのではなく、PC一人一人に個別の役割が配されるゲームプレイを指す、とします。
このようなゲームプレイが生まれた背景には、「リアルなキャラ」への反省もあったのでしょう。個々のリアリティを練り合せるためには、手間暇(コミュニケーションと時間)が必要です。さもなくば、参加者同士で解釈が食い違い、シナリオ進行が停滞し、そしてゲームプレイは破綻します。また、真に小説や映画のようなストーリーは、その世界のリアリティから生まれるのではなく、その登場人物が担う役割によって構築されるのです。
「キャスト」において最も優先されるのは、(舞台世界ではなく)シナリオにおけるPCの「立ち位置」(Standpoint)であり、「何をすれば良いか」が適切に割り当てられることです。ちなみに「立ち位置」とは、発言や行動に影響を与える境遇や役割という意味では「立場」(Standpoint)と同義ですが、より個人的、流動的、相互補完的なニュアンスを含みます。つまり、複数のPCで競合することはなく(キャラがかぶらない)、PCの人格ではなくシナリオの都合で決まり、かつ他のPCやNPCとの掛け合いへと誘うもの、となります。これを上位とする階層構造は、次の通り。
- 立ち位置 : PCは、シナリオ上で重要な役割を担う人物として創作され、その役割を果たすべく行動する。
- その能力 : クラスや技能は、PCが役割を担うのに有用なものとして選択され、役割を果たすために行使される。
- その設定 : 人格や背景は、PCが役割を担うことやその能力に符合するよう設定され、描写される。
PCは「立ち位置」に則って行動するのですから、プレイヤーはまず、PCの「立ち位置」を、いち早く、間違いなく掴まなくてはなりません。キャンペーンならば、PC作成前後の打ち合わせや、出会いの場面での掛け合いなどから、時間暇をかけて「立ち位置」を定め、互いに見極めていくことができます。コンベンションなどでは手間暇かけられませんので、やむを得ずゲームマスターが主導して、シナリオに適した「立ち位置」をPCに割り当てることになります。
PCがシナリオにどのように関わっていけば良いか、その中でどう活躍すれば良いか、などは「立ち位置」から推定されます。PCの行動は、性格や過去の経歴によって決まるのではなく、「メタ」なところで決まっているのです。「立ち位置」に反しない範囲でのアドリブはむしろ推奨されますが、独創的すぎるアイデアで他の参加者を混乱させてはなりません。PCは「ストーリー構築のための部品」に徹します。
PCが「キャスト」なら、NPCもまた「キャスト」です。その役割は専ら、PCの「立ち位置」を引き立たせ、PCの見せ場を作ることにあります。見せ場を平等にしたければ、PCごとに用意するNPCのバランスが重要となります。
「キャスト」のためのシナリオは、「台本」のように構築されます。基本的なストーリー、登場人物(PCもNPCも)の人間関係、重要な場面での劇的な展開などは、ほぼ決まっています。それらを大きくは逸脱しない、あるいは元の筋に戻せる、とゲームマスターが判断すれば、プレイヤーのアドリブも歓迎されます。つまりプレイヤーの「立ち位置」とは、「台本」を逸脱しない範囲を示すものなのです。「台本」としてシナリオを作成することよりも、「台本」の内容をプレイヤーに教えることの方が難しい、と言えましょう。
キャラクターの都合より上位において、プレイヤーとゲームマスターとが協力し、PCとNPCとに「台本」を表現させて遊ぶ。これが、「キャスト」を「メタゲーム」としたゲームプレイです。