殴り合うゲームプレイ
「殴り合うコミュニケーション」の有無は、卓上RPGのプレイにも影響を及ぼします。仲間と「殴り合う」ことを抵抗無く楽しめる者と、何らかの理由で「殴り合う」ことができない者とでは、「好ましい」と思う遊び方が異なってくるのです。
卓上RPGを遊ぶべく一緒に卓を囲むゲームマスターおよびプレイヤーたちは、まさに「仲間」に他なりません。ゲームプレイを皆で楽しみたいという願いも同じ(はず)ですが、それを叶えるための行動は必ずしも一緒ではありません。各人の思想や嗜好、ゲームシステムやゲーム内状況についての解釈などに個人差があるため、ある者にとっての「楽しむためのプレイ」が、他の者からは「楽しみを阻害するプレイ」と評価されることがあるのです。このような自他のプレイに対する評価の違いが表面化すると、意見の対立が発生します。
「殴り合うゲームプレイ」では、自他で評価の異なるプレイは、互いに是認されます。ここでは、ゲームマスターは「プレイヤーがきっと期待通りに動いてくれるだろう」と思っていませんし、各プレイヤーもゲームマスターや他のプレイヤーに対してそのような期待はしていません。「こうあって欲しい」「こうだと良い」と思うことはあっても、その通りになるか否かは成り行き次第。
どうしても黙認できないならば、というよりは、黙認しない方が面白そうならば、プレイヤー同士で相談するか、そのままキャラクター同士の掛け合いに活かされます。以下は、その一例。
- プレイヤーによる相談の場合
- GM 「敵は高らかに笑い、勝ち誇って言います。『もう手遅れだぞ、何故ならば、もけ』」
- 猪木 「ショットガンで撃ちます」
- 馬場 「バカ、全部白状させろって」
- 猪木 「バカ、言い終わったら先制とられちゃうじゃん」
- 馬場 「バカ、話させないと、謎が残るだろ~。言い終わりそうなところで合図するからさ」
- 猪木 「しゃあねぇな、GM、続き話して」
- GM 「ほい、『何故ならば、我が神が』」
- 馬場 「もけはどうした、バカ」
- キャラクターによる掛け合いの場合
- GM 「敵は高らかに笑い、勝ち誇って言います。『もう手お』」
- 猪木 「田吾作はショットガンを撃ちます。判定成…」
- 馬場 「何やってるバカ、熊五郎の方が早いので『早まるな』とスリーパーホールド。判定成功」
- 猪木 「何やってるバカ、田吾作は『バカ熊やめろ何をす』と逃れようとします。このまま撃てる?」
- GM 「敵の立場は…まぁ良いか、対抗判定して逃れてからでないと、命中率1/5」
- 猪木 「なら、先にSTR対抗判定。…ファンブル」
- GM 「落ちた」
- 猪木 「ガクリ」
- 馬場 「よし!」
- GM 「敵は『お前ら味方ではなかったのか』と問う」
- 馬場 「『いいから続けて』」
…と、このような熾烈な意見対立を楽しむのです。予想外の展開こそ予想通りと慣れてもいますから、それがゲームプレイ進行の邪魔にはなることはなく、むしろその枢要として受け入れられます。成り行き次第で、時に「睦び合う」のを楽しみ、時には「殴り合う」のを同等以上に楽しむのが、「殴り合うゲームプレイ」です。