前回(1)に引き続き、『Basic RolePlaying』(BRP)の三つの「中世ヨーロッパ」世界設定を比較します。今回は特に、「その世界にお奨めのオプションルール」(Suggested Optional Rules)について。
- 暗黒時代(Dark Ages)。荒廃した中世ヨーロッパで騎士やバイキングが闘う、剣と斧の時代。
- 騎士道物(High Medieval)。中世ヨーロッパの封建社会で騎士道に生きる、剣と十字架の時代。
- 幻想世界(High Fantasy)。様々な種族が善と悪との勢力に分かれて闘う、魔剣と魔法の世界。
BRPのルールブックには、38のオプションルールが示されています。その内18のルールから幾つかが、各世界設定における「お奨めのオプションルール」として挙げられています。「お奨め」ですから従わなくとも構いませんが、採用した方がその世界設定らしいゲームプレイになる、というゲームデザイナーの「世界観」がそこに込められています。
第一に、三つの「中世ヨーロッパ」に共通する「お奨めのオプションルール」から観てまいりましょう。ルールブックp.285(Checklist)通りの順序でオプションルールの概略を示してから、私なりに見出した「世界観」を解釈します。
- 所属する文化によって、能力値や技能値に修正が加えられる。
- 身体部位ごとの耐久力(HP)を決める。人間型なら頭、両腕、胸、腹、両足。
- 「疲労度」(Fatigue Points)。戦闘や水泳、登攀や全力疾走等で消費される。
- 「読み書き」技能(Literacy)。ゼロのままだと、文字の読み書きができない。
- 攻撃がどの部位に命中したかを決め、部位によりダメージの効果が変わる。
- 「信仰点」(Allegiance)。信条に即した行動によって増え、特典を与える。
文化による修正は、多様な文化の混在を意味します。古代(ローマ)帝国のように同質の文明が普及しているのではなく、文明の残滓と侵入した蛮族とが混在し、争いつつも同居している「中世ヨーロッパ」なのです。どの文化を選ぶかによってキャラクターに能力差が生じることで、所属する文化の違いをゲームプレイ中にも意識し合うことになります。
身体部位や「疲労度」は、具体的かつ血生臭い戦闘描写を招きます。攻撃が単に「当たった」だけでなく、どこに当たったか、その部位がどうなったかがルール上で明確になるため、ルール通りの処理によって血みどろの攻防が視覚的に表現されます。また「疲労度」による行動制限は、キャラクターの息の乱れさえも感じさせるでしょう。ちなみに、身体部位が推奨されているのは、中世ヨーロッパの他は「古代文明」(Ancient)世界だけです。
「読み書き」技能の存在によって、文字を扱うことは「誰にでもできる」ことではなくなります。その世界の教育程度が低い、というよりは、教育が「祈る人」(聖職者)によって独占されていた「中世ヨーロッパ」を再現するためでしょう。ゲームプレイの中で、知的職業や文書類、更には文字そのものを、特別な存在に仕立て上げます。
「信仰点」によってゲームプレイ内の世界では、宗教が人々の生活にまで影響することとなります。歴史上の「中世ヨーロッパ」で、キリスト教が政治よりも上位に立ち、あらゆるものに支配的であったように。宗教がキリスト教でなくとも、信条に合わせて行動を考えなくてはならないことは、「中世ヨーロッパ」的と言えます。
第二に、「暗黒時代」(Dark Ages;DA)では、共通のオプションルールに加え、次の二つが「お奨め」となっています。
- 能力値「教育」(Education)と知識ロール(Knowledge Roll)。
- 「正気度」(Sanity)。強い心的ストレスによって減り、行動の妨げとなる。
TRPG『クトゥルフ・ダークエイジ』で採用されている通りのオプションルールです。
受けた「教育」の多寡を能力値に反映させることで、その格差を強調します。史実の「中世ヨーロッパ」で、あらゆる知識が「祈る人」(聖職者)に独占され、他の身分との教育格差が大きかったことを示しているのでしょう。このルールを採用しないHMやHFには、教育程度が極端に異なる人物は(存在しないのではなく)登場しない、とも想像できます。
「正気度」は『クトゥルフ神話TRPG』(CoC)で有名なルールですが、怪物との遭遇に限られたものではありません。殺人や拷問など、あらゆる暴力が恐怖の対象となります。何時身に降りかかるかも知れぬ、日常に隣接した恐怖に慄く人々こそ「暗黒時代」の住人であり、キャラクターもまたその一人なのです。
第三に、「騎士道物」(High Medieval;HM)では、共通の「お奨め」の他、次のようなルールが加えられます。
- 能力値を決める際、サイコロの出目を任意の能力に当てる。
- 能力値を決める際、3D6で決める値を、2D6+6で決める。
- 人間以外のキャラクターを担当することができる。
- 技能に割り当てる値が増える。常人250、達人325、英雄400、超人500。
- 技能値を100%以上にまで成長させられる。
- 戦闘技能値を100%以上にまで成長させられる。
- 攻撃技能と受け流し技能を、別途に成長させる。
能力値や技能値に関するルールによって「騎士道物」のキャラクターは、DAよりも強靭な存在となります。キャラクターは一般人より上位にある者、普通の人にはできない難事に挑戦する者なのです。騎士を常人以上の存在とすることによって、その敵として相応しいのは伝説の魔獣や他の騎士に限られます。
「人間以外のキャラクター」がHMでは珍しくないとは、逆にDAでは人間以外のキャラクターが登場しない、ということでしょう。DAの方が現実的、(HFほどではなくとも)HMの方が空想的と言えます。「人間以外のキャラクター」が推奨されるのは、HMとHF以外では、後世のSF的世界設定くらいです。
「攻撃技能と受け流し技能を別途に成長させる」ルールの意味は、ちょっと分かりません。私には分からなくとも、ゲームデザイナーにとって何らかの「世界観」の顕れなのでしょうけど。
第四に、「幻想世界」(High Fantasy;HF)の「お奨め」は、HMとほぼ同じですが、更にひとつ加わります。
- 超常能力を、他の行動と同じように、DEX順で処理する。
DAやHMでは、超常能力は戦闘ラウンドの最初に、超常能力以外のあらゆる行動に先んじて処理されます。この場合、魔術は剣と別格の、常人では太刀打ちできない恐ろしい力となります。HFでは、超常能力も武器攻撃などと同じように処理されるため、素早い剣士なら呪文より先に攻撃することが可能です。戦士と魔術師とが同格であるのが、「剣と魔法」の世界、HFの特徴と見て良いでしょう。
ところで、いくつかの世界設定で「お奨め」されているのに、三つの「中世ヨーロッパ」ではそうでないオプションルールが二つあります。第五として、これら「中世ヨーロッパではお奨めされていないオプションルール」にも触れておきます。
- 耐久力を「体力(CON)と体格(SIZ)の平均値」ではなく、両者の「合計値」で決める。
- 射撃(矢や銃弾、レーザー)を、避けたり受け流したりできる。
BRPでは、耐久力は「CONとSIZの平均値」(端数切上)なのが通例です。それを「CONとSIZの合計値」とするのは、キャラクターが半神や超人であることを意味し、「古代文明」「パルプ小説物」「超人物」等の世界設定で推奨されています。「中世ヨーロッパ」で奨められていないのは、半神が顕れる世界ではなく、強靭ではあっても普通の人間が血を流す世界、ということでしょう。ただし「信仰点」を極める(100以上)と、同様の特典が得られる場合もあります。信仰によってのみ人間を超えられる世界、とも解釈できます。
矢などを避けるルールが推奨されない理由は、幾つか考えられます。そこまで超人的存在ではない(DA)とか、騎士の戦いには弓矢など無用(HM)とか、弓使いとの戦闘力のバランスをとるため(HF)とか。このオプションルールは、どの程度まで防御が可能か、で更に幾つかのルールに分かれます。なお、CoCと同じような「射撃(銃弾など)を避ける」ルールは、BRPでも基本ルールの方に組み込まれています。
以上です。
「世界観」をよく反映したルールシステムは、ルール通りに処理するだけで自然と、その「世界観」らしいゲームプレイを再現します。それは同時に、その「世界観」に基づく「世界設定」らしいゲームプレイをも成立させてくれます。「世界観を味わう」遊び方は昨今の流行りではありませんが、ゲームデザインを志す方なら知っておいて損のない技法である、と考えます。