kumatanさんの下記論考について、私なりに考察してみます。
「RPG内ADV」(TRPG内アドベンチャーゲーム)とは、リプレイ風の例示から「冗長で、行為判定が行われないゲームプレイ(の一場面)」のことと解釈されます(間違っていたらご指摘ください)。そこで、次の四通りのゲームプレイを比較して、各々の特徴を考えます。
- 簡潔で、行為判定が行われないゲームプレイ
- 簡潔で、行為判定が行われるゲームプレイ
- 冗長で、行為判定が行われないゲームプレイ =「RPG内ADV」
- 冗長で、行為判定が行われるゲームプレイ
まずは、最も簡潔なやり取り。
- 1. 簡潔で、行為判定が行われないゲームプレイ
- (PCの一行がある依頼を請けた直後)
- PL「とりあえず、大事な情報を握ってそうなAさんの住んでいるところに行って、話しを聞いてみる。」
- GM「うん。訪ねてきた君たちに、Aさんは次のような話をするよ...。」
- (以下略)
「簡潔で、行為判定が行われないゲームプレイ」は、ゲームマスターがプレイヤーにどんどん情報を与えて、ゲームプレイを速やかに進展させたい場合に採用されます。上の事例では、PCとAさんとが出会うまでの場面は(少なくともゲームマスターにとって)重要ではなく、時間をかける意義を感じないため、さっさと終わらせるためです。戦闘のためのルールしか無いようなゲームシステム(ゲーム作品)は、しばしばこのように遊ばれました。
行為判定が加わると、次のようになります。
- 2. 簡潔で、行為判定が行われるゲームプレイ
- (PCの一行がある依頼を請けた直後)
- PL「とりあえず、大事な情報を握ってそうなAさんの住んでいるところに行って、話しを聞いてみる。」
- GM「うん。Aさんは君たちの来訪に驚いている。説得するための判定をして、成功したら話を聞けるよ。」
- PL「失敗。」
- GM「Aさんは話をはぐらかして、情報をもらうことはできなかった。どうやら、あまり人に話したくない理由があるようだね。」
- (以下略)
感情や情報のような「非数値データ」を扱うルールとして、例えば『クトゥルフ神話TRPG』であれば「図書館」や「言いくるめ」など、『Savage Worlds』には「Investigation」や「Persuasion」などによる技能判定があります。判定の結果によって「非数値データ」がどうなるかはゲームマスターが決めますが、判定をした時点でプレイヤーは、成功か失敗かによって流れが変わったものと期待します。「簡潔で、行為判定が行われるゲームプレイ」は、PCの行動によってシナリオの展開を分岐させたい場合に用いられます。
次は、kumatanさんの論考から全文を引用しました。
- 3. 冗長で、行為判定が行われないゲームプレイ (=RPG内ADV)
- (PCの一行がある依頼を請けた直後)
- PL「とりあえず、大事な情報を握ってそうなAさんの住んでいるところに行って、話しを聞いてみる。住所はわかる?」
- GM「うん。さっきの依頼主から聞いてるよ」
- PL「じゃぁ、Aさんの家に行く」
- GM「特に妨害されることもなく彼の家の前に着いたよ。わりと大きな建物だ。」
- PL「Aさんはいるかい?」
- GM「さぁどうかな。いま玄関の扉の前だけど、どうする?」
- PL「扉を叩いて呼ばわってみよう」
- GM「じゃぁ、ほどなく初老の男の人が扉を開けて出てくる」
- PL「これがAさん?」
- GM「わからないね。依頼をうけるとき君たちはAさんがどんな姿の人物かを訊ねなかっただろ?」
- PL「えー! じょーしきてきに考えてそんな情報は依頼者から聞いてるだろ。聞いてたことにしようぜ」
- GM「うーん、しょうがないなぁ。じゃぁ、そういうことにしといてあげよう。どうやら彼はAさんではなさそうだ。君達に尋ねてくるよ。《どちらさまですかな? だんな様に何か御用で?》みたいなことを言っている」
- PL「召使いのたぐいかな?」
- GM「そうだよ。さぁ、なんと答える?」
- PL「かくかくしかじかと用件を伝える」
- GM「いや、ちょっとまった、ちゃんとセリフで言ってよ。具体的に何と言うの?」
- PL「じゃぁ、こう言おう。えーっと...」
- (以下略)
「冗長で、行為判定が行われないゲームプレイ」では、行為判定で成否が分かれなくとも、プレイヤーが決めたひとつひとつの行動によって展開を分岐させることができます。依頼者に何を聞いて、何を聞かなかったか、どのようなセリフで話すか、といったことをプレイヤーに具体的に決めさせて、その適不適をゲームマスターが判断するわけです。戦闘ルールしか無いゲームシステムでのシティアドベンチャーがこうなるのは、やむをえないことであった、と考えます。
最後の事例での行為判定には、『クトゥルフ神話TRPG』を用います。
- 4. 冗長で、行為判定が行われるゲームプレイ
- (PCの一行がある依頼を請けた直後)
- PL「とりあえず、大事な情報を握ってそうなAさんの住んでいるところに行って、話しを聞いてみる。住所はわかる?」
- GM「信用技能で判定。成功したら、さっきの依頼主が教えてくれたことになるよ。失敗したら自分で調べなくてはならない。」
- PL「成功。じゃぁ、Aさんの家に行く」
- GM「ここは判定しなくていいか。特に妨害されることもなく彼の家の前に着いたよ。わりと大きな建物だ。」
- PL「Aさんはいるかい?」
- GM「さぁどうかな。幸運ロールをして、成功したらいることにする。」
- PL「あれ、失敗だ。それでも扉を叩いて呼ばわってみよう。」
- GM「じゃぁ、ほどなく初老の男の人が扉を開けて出てくる」
- PL「これがAさん?」
- GM「わからないね。依頼をうけるとき君たちはAさんがどんな姿の人物かを訊ねなかっただろ?」
- PL「えー! じょーしきてきに考えてそんな情報は依頼者から聞いてるだろ。聞いてたことにしようぜ」
- GM「うーん、しょうがないなぁ。じゃぁ、知識ロールに成功したら、聞いていたことにしといてあげよう。成功?どうやら彼はAさんではなさそうだ。君達に尋ねてくるよ。《どちらさまですかな? だんな様に何か御用で?》みたいなことを言っている」
- PL「召使いのたぐいかな?」
- GM「そうだよ。さぁ、どうする?」
- PL「かくかくしかじかと用件を伝える」
- GM「いや、ちょっとまった、ちゃんと信用技能とか言いくるめ技能で判定してよ。」
- PL「じゃぁ、言いくるめよう。よし、成功だ!」
- (以下略)
「冗長で、行為判定が行われるゲームプレイ」では、行為判定の回数が増えます。回数が増えると分岐が大きくなるかというと、そうでもありません。一回一回の成否の重要性が薄れるため、むしろ明確に分岐させなくてもよくなるのです。例えば、戦闘の処理を冗長にせず、一回の戦闘を一回の判定で勝敗を決めたならどうなるか、と考えてみてください。更には、気に入った行動やセリフを示したプレイヤーの判定にプラスマイナスの修正を加えることで、ゲームマスターが結果を管理することも可能です。交渉や調査のためのルールがあるから判定しないわけにはいかないけれど、予定通りのストーリーをなぞらせたい場合に便利です。どんどん分岐させることも可能ですけどね。
ルールがあれば判定しないわけにはいかないので、次のようにまとめられます。
- 戦闘ルールしかないゲームシステムで、展開を分岐させたくないなら、「簡潔なゲームプレイ」で遊ぼう。
- 戦闘ルールしかないゲームシステムで、展開を分岐させたいなら、「冗長なゲームプレイ」(RPG内ADV)で遊ぼう。
- 交渉ルールなどがあるゲームシステムで、展開を分岐させたくないなら、「冗長なゲームプレイ」で遊ぼう。
- 交渉ルールなどがあるゲームシステムで、展開を分岐させたいなら、「簡潔なゲームプレイ」で遊ぼう。
以上の考察は、四通りの遊び方を比較して、その取捨選択に活かすためのものです。
もちろん、上記の遊び方のいずれかを、好き嫌いだけで選ぶ場合もあります。例えばPCのセリフを長々と語らせる理由を、「演技による掛け合いが好きだから」やら「そうしてPCの人格設定を深めるのが楽しいから」などとして。同じような性向を持つ仲間同士で遊ぶなら、それでも構いません。
好き嫌いは誰にでもありますが、嫌いなものの長所、好きなものの短所に目を向けることで、遊び方の幅と深さを広げることができる、と私は考えます。