私が考える「初心者専用世界設定」とは、異質な世界を受け入れるのに慣れていない者が、そのための努力無しに数回は遊ぶことができる、というものです。これに叶う世界設定とは、その世界の「リアリティ」(本当らしさ)が我々と同質なもの、あるいは異質であっても受け入れなくて良いもの、と考えられます。
以下、「初心者専用世界設定」の極端な例を、三つ挙げてみます。一つめにリアリティを同質としたものを、後の二つにはリアリティを受け入れなくて良いものを。
まずは、我々と同じ世界をそのまま用いるもの。
- リアリティが現実と同じ世界設定
- "いつもと変わらない朝。会社や学校に向かう人の群れ。そんなある日、この当たり前の世界で、その事件は起こった。"
- 現代日本の、できればプレイ参加者が住んでいる地域を用いる。地名や店名などを仮名にしてもよいが、内容は自分たちの馴染み通りのものであること。また、端役的なNPCは、プレイ参加者が知っている実在の人物をモデルに組むと良い。バレバレの仮名を推奨。
- キャラクター(PC)には、現代日本に実在しうる人物を選ぶ。会社員や学生など、自分と同じような職業が無難。芸能人や刑事など、誰も経験がない職業でも、さほど問題は無い。
- シナリオでは、現実でも起こりうる事件を扱う。例えば、銀行強盗や誘拐事件、無差別テロなど。それらに出会う可能性までは、さすがに気にしないで良い。
- 仲間内でのプレイ向きで、コンベンションには向かない。また、現実逃避のためにゲームを使いたい者には合わないかも知れない。
どうしても現実離れした世界を使いたければ、キャラクターを記憶喪失にすることでリアリティを無視する、という手があります。
- リアリティが忘れられている世界設定
- "気がつくと、そこは見知らぬ場所。そして事件が起こった。ところで、私は誰なのか、何故ここにいるのか?"
- キャラクター(PC)は全員、記憶喪失になったこととする。分かるのは、名前と性別、年齢程度とし、それまでの生活については思い出せないままプレイに臨む。実際には、プレイ参加者自身のリアリティが反映されるが。
- いつのどことも知れぬ、奇妙な世界をさまよう。果てしなく続く森、巨大な屋敷、霧に包まれた町、など。現実離れした環境の中、いかなるリアリティをも感じさせないようにする。そこに住むNPCもまた、PCの記憶に関わる働きかけは何もしない。
- シナリオとして、何らかの事件に関わるが、最後まで記憶喪失のまま。謎を解こうとも、敵を倒そうとも、記憶は戻らないまま終える。あるいは、終わると同時に記憶が戻る、その世界の謎が解ける、でも良いが、その先は続かない。
- さすがにキワモノ過ぎて、おそらくは一回が限度。
また、世界設定があっても、あえてリアリティに目をつぶる、という手法もあります。いわば、意図的に思考停止するのです。
- リアリティを気にしない世界設定
- "シュシェンメルモール暦974年、フェルキアイオ大陸カエモラモンテッキア王国の一都市チンガリーノヴィラピロ。この世界は、善神グランセルを崇める善の勢力と邪神ガリアルドを拝める悪の勢力とが対立する、中世ヨーロッパ風のファンタジー世界であって...。それはそれとして、君たちは酒場にいる。"
- あらゆる設定は「ただ、そこにある」だけとし、そのリアリティについては考えない。地図や歴史は固有名詞の羅列に過ぎず、登場人物もそういう名前の人がいるだけ。「中世ヨーロッパ風」などの言葉で、雰囲気を掴んだことにしてしまい、細かいことは考えない、言わないように努める。
- キャラクター(PCとNPC)も、リアリティの無い人物とする。表層的な性格付けを機械的に処理するだけで、複雑な人間性や内面の葛藤などは追及しない。
- シナリオには特に規制は無い。ただし、その世界で「何をするのが自然か」が分からないので、シナリオとして「何をすれば良いか」が決められ、明示される必要がある。
- 「考えるな、感じよ」というか、鵜呑みにして深く考えない、という姿勢で臨むこと。それができない者には合わない。
以上、極端な例でした。
極端と言いながら、三番目の「リアリティを気にしない世界設定」は、日本ではよく使われている手法です。良くも悪くも、日本人の性向に合っている、ということかも知れません。この辺、後にまた触れますが、それを捨てる代わりに、他の部分に力を注いでいるわけです。
いずれにせよ、経験者であれ初心者であれ、異質なリアリティにどっぷり浸かりたい、異世界をとことん味わいたい、という方にはお勧めしませんよ。