「老人は酒場の他の客に聞こえないよう、声を細めて話し始めた。
『あの丘の下には、呪わしい魔術師が築いた地下要塞があるという。魔術師の財宝目当てに入って、生きて帰った者はおらん。月のない闇夜には恐ろしい魔物が地下から抜け出して人を襲うため、人身御供を出そうという村もあるのじゃ…』と。
さぁ、どうする?」
「自由なダンジョンを作る」の続き。「自由に遊ぶ」ゲームプレイの運用例を、先に作ったような「ダンジョンシナリオ」を用いて示してまいります。まず「手順5 : プレイを始める」の流れは次の通り。
- ゲーム内の基本情報について参加者全員で確認する。
- ゲームマスターはシナリオの初期情報を示す。
- プレイヤーは初期情報に関わるように行動する(キャラクターに行動させる)。
ゲームマスターはシナリオの「事件/人物/場所」についての情報を、「自分が面白いと思う」ような形でプレイヤーに示します。情報の内容が揃っているか、断片的か。ゲームマスターとして直接語るか、キャラクターを介するか。強調するか、さりげなく触れるか。始めは隠しておく方が「面白いと思う」情報もあるでしょう。
冒頭の文章は「ダンジョンシナリオA~C」に共通して使える、老人NPCを介した断片的な情報の例です。地下要塞と財宝と魔物の存在が明確にされ、ダンジョンに光を嫌う魔物がいることはさりげなく示され、魔術師が地下要塞を築いた理由や財宝の正体は隠されています。より簡単に「君たちはダンジョンがあることを知った」と言うだけでも構いません。また「ダンジョンシナリオC」のように「事件」が複数あるなら片方か両方を隠すこともできます。こうしてゲームマスター一人一人が「自分が面白いと思う」ように工夫することで、同じシナリオにも個性が生まれます。
プレイヤーは示された情報のいずれか「自分が面白いと思う」ものを選び、それに対して「自分が面白いと思う」ような(この時点での)シナリオへの関わり方を考え、そのための(キャラクターの)行動を決めます。「呪わしい魔術師」を選んでも、「魔術師の目論見を打破する」「魔術師の正体を探る」「魔術師の遺産を手に入れる」など、関わり方は様々です。「財宝を手に入れる」という関わり方でも、「財宝の輸送手段を確保する」「財宝の買い手を探す」「無欲な仲間を集める」など、行動は様々です。こうしてプレイヤー一人一人が「自分が面白いと思う」ように工夫することで、同じシナリオに同じゲームマスターでも個性が生まれます。
このように参加者次第で展開が多様ですから、ゲームマスターにはプレイヤーが「何をしても良い」という心構えが、プレイヤーにはゲームマスターや他のプレイヤーが「何をしても良い」という心構えが求められます。情報をさりげなく示すのは「ゲームマスターの自由」ですが、それに気付くか気付かないかは「プレイヤーの自由」です。隠された情報は最後まで探られないままかも知れませんが、それもまた各々が「自分が面白いと思う」行動の結果である、と受け入れることが肝要です。
また変則的ながら、プレイヤーがどの情報にも関わらない、ということもありえます。「関わらない」というのも関わり方の一種であり、「関わらない」ことを「面白いと思う」プレイヤーによって選ばれます。この際、ゲームマスターや他のプレイヤーは、このプレイヤーを無理に関わらせようと強いるべきではありません。後から他のプレイヤー(のキャラクター)に絡んだり、成り行きを見守ってから突如登場するなど、先々の展開に期待しましょう。
プレイヤーA「魔術師の財宝か、ぜひ拝みたいものだ。では…」
プレイヤーB「地下要塞に巣食う魔物だって?退治てくれよう。まず…」
プレイヤーC「人身御供とはひどい、村人たちを救わねば。だがその前に…」
プレイヤーD「…今すぐには何もしない。(後で誰かに絡むとしよう。)」
馳せる想いは違えども、冒険に挑むことでは彼らの道はひとつであった。(続く)