そろそろ「遊戯法」を具体的に考えていきましょう。
例えば、行為判定ルールにおける「失敗」をどう扱うかによって、シナリオの構造が異なったものとなり、その楽しみどころも替わります。仮にゲームやシナリオのテーマが同じであっても、ルールの使い方だけで別の「遊戯法」となり、参加者を異質なプレイに導くのです。
ここではそれらを「減点方式」「加点方式」「分岐方式」の三種に称して、各々説明します。なお、例示する技能名は何でも良かったので、私の好きな「クトゥルフ神話TRPG」から挙げております。
まず「減点方式シナリオ」では、行為判定が成功する度にシナリオが進展します。例えば「説得」技能に失敗すれば相手から情報を聞き出すことはできませんし、「鍵開け」に失敗すれば扉を開けることはできません。失敗し続ける限り話はいつまでも進まず、再度判定して成功するか、成功できそうな別の手段を考えなくてはいけません。成功が基準で、失敗した場合の「減点」しかないので、「減点方式」です。
「減点方式シナリオ」の遊び手は、ルールシステムの深い理解に基づくキャラクター作成、プレイヤー同士の協力に基づくチーム構成、プレイ中の的確な判断力とチームワークを満足させ、更に伸るか反るかのスリリングなプレイを満喫させます。ただし、状況に応じて行動するための発想力と、何より幸運が不足すると、途端に停滞してしまいます。
対して「加点方式シナリオ」では、行為判定が失敗してもシナリオは最低限進展します。もし成功したなら、より効率的に進展することになります。「説得」に失敗してもNPCは最低限の情報を与えてくれますが、追加情報はもらえません。「鍵開け」に失敗しても扉は開きますが、鍵が壊れたり中の人間に気付かれてしまうかも知れません。失敗が基準で、成功による「加点」しかないので、「加点方式」です。
「加点方式シナリオ」では停滞はありえません。ルールをよく知らなくても、チームワークが不十分でも、幸運に見放されていても、プレイヤーの努力は最低限は報われます。何より気軽に遊べますし、実用性一点張りでない凝ったキャラクターを作る余裕や、設定を活かした演技演出を楽しみ合う余力を得ることもできます。ただし、構造を見透かされると成功の喜びは無くなりますし、ゲームマスターの思うままにされているように思えば無力感に苛まれるかも知れません。
上記二種は、シナリオに「進むべき展開」が(基本的にはひとつ)あるという点で共通しています。しかし次の方式にはそれがありません。
それが「分岐方式シナリオ」です。ここでは、成功した場合には成功したなりにシナリオが展開し、失敗したなら失敗したなりに異なって展開します。再挑戦は、できる場合とできない場合とがあります。「説得」に成功したなら情報は入るけれど、PCがそれを探っているという情報が敵方にも伝わるかもしれません。失敗すれば門前払いになり、こちらの存在も秘密のままにできるでしょう。「鍵開け」に成功すれば扉を通ることができるでしょうが、失敗して通れないことで誰かが姿を現すかも知れません。「加点」でも「減点」でもなく、ただ「分岐」するだけなので、「分岐方式」です。
「分岐方式シナリオ」では、分岐した結果の格差によって「減点方式」に近くなったり「加点方式」のようになったりします。バランス次第では両者の良いところ取りができますが、シナリオ作成が複雑化することもあって、難度は高くなります。用意された分岐点以外でも分岐は起こりえるので、シナリオとゲームマスターの双方に柔軟さが要求されます。
ゲームシステムが三つのどれに向いているか、行為判定ルールからある程度判断することが可能です。例に挙げた「クトゥルフ神話TRPG」のように、成功か失敗かが即座に明らかになってしまうものは「減点方式シナリオ」や「分岐方式シナリオ」に向いています。プレイヤー側の成功値と、ゲームマスター側の達成値とを比較するルールであれば、達成値を事前に言わないなら特に、「加点方式シナリオ」に適しています。ヒーローポイントのような追加点が多いなどして、重要な判定は必ず成功できるならば、「減点方式シナリオ」でも停滞することなく遊べるでしょう。